■民主主義と資本主義のジレンマ 
11/16日経新聞の「直言」欄に、ジョセフ・スティグリッツ氏(米コロンビア大学教授、ノーベル経済学賞受賞者)の『無制限な資本主義 是正を』が掲載されていました。
この記事には『資本主義と民主主義を国際システムの基盤としてやってきたが、この2つの矛盾(ジレンマ)が健在化しつつある』ことが書いてあり、私もあらためて共感するとともに再認識しました。

資本主義が推進する多くの価値観、利己主義や近視眼的な視点は民主主義と相容れない。民主主義とは“いかに協力して働くか”ということだ。かって資本主義と民主主義は共存すると考えられていたが、今は資本主義が分断や利己主義を助長して、民主主義と対立している。無制限な資本主義は大きな不平等を生む。
資本主義の根幹は競争にあるはずだが、実際は独占資本主義に陥っている。経済力の集中は政治的不平等を招き、民主主義に反する。自由民主主義と市場経済は大きな緊張関係にある。
同記事では、トランプ大統領のことについて、以下のように危惧の念を述べています。
トランプ氏はポピュリズムを利用している。多くの米国人は所得や健康状態の悪化に不満を持っている。真の問題は独占企業を許し、健全な医療制度や教育制度をつくってこなかったことだ。失敗の責任を他者に押し付けるのが最も簡単だ。今はAI(人工知能)バブルで経済が表面的に維持できているが、そのうちに維持できなくなり、いつかは崩壊する状況にある。
戦後80年にわたり、米ドルは基軸通貨の地位を維持してきた。しかし今は米国の政策の不確実性からドルの将来に不安の声も出始めている。欧州も中国もすでに分散投資に移行しており、人々がまだ十分に理解していない非常に劇的な形で、ドルの弱体化がすでに始まっていると考える。
国際通貨システムの全面的な再構築が必要になってきている。
これらを進めていく上で大切なこととして、“人間社会の倫理観の醸成”が大切ですが、近年の世界や日本の政治情勢をみていると、“倫理観の欠如の顕在化”を感じざるを得ません。つい哲学者&思想家・内田樹氏が著書「サル化する社会」で語っていることが思い浮かびます。
現代人は、長い時間の流れの中に自分を置いて、何が最善の選択なのかを熟慮するという習慣を失って久しい。「効率化」という名の下に利己的で近視眼的な物の見方が普通になってきており、要は想像力が不要な社会に変化してきている。(「朝三暮四」の寓話を引用)
“Honesty pays in the long run”という諺がある。「長期的にみれば、正直は引き合う」(信用は積み重ねで得られる)という意味だが、それを逆説的にいえば「短期的にみれば、嘘は引き合う」ということになる。
だから時間意識が縮減した現代社会は、「短期的に見る」ことしかしない人間にとって、「嘘をつくことの方が引き合う」ということになる。

ドナルド・トランプは100年単位の長期的なスパンで捉えたら、米国史上でもっとも愚鈍で邪悪な大統領として歴史に名を残すだろう。長期スパンで見た時に、「アメリカの国益を大きく損なった人」として世界史に記録されることは確かだが、短期的に見れば大成功している。ファクトチェックによると、就任からすでに1万以上の嘘を重ね、フェイクニュースを垂れ流すことによって成功した。
「嘘は引き合う」の最も説得力のある好事例だ。
SNSの時代になり、日本の選挙でもレベルは低いものの類似案件が散見されており、“世界に誇れる信頼社会”がいつの間にか“不信社会”に変質し始めていることに危惧を感じています。先ずは”2馬力選挙”や”SNS活用の恫喝による自死”などが2度と起こらないような選挙制度改革を実現してほしいと願っています。