民主主義の危機
SNSやAIテクノロジーの進化により、最近はますます嘘か真かわからない情報が氾濫する傾向が強くなってきました。信頼社会であった日本でしたが、いつの間にか不信社会になりつつあることが危惧されます。 一方で、今の時代は知識があまりにも細分化されていて、全体の流れや枠組みがどうなっているのか分かりにくくなっている上に、多様化・複雑化した社会が進展し、それを読み解き正しい判断をすることが困難になりつつあり、ついつい“シンプルな問いに、シンプルに回答する”ことでスッキリするような感覚に陥りがちです。要は「複雑な思考を巡らすより、悩むより思考停止してスッキリしよう」となるわけです。 

今はポピュリストの意見がシンプルでわかりやすく説得力を持つような時代です。ポピュリストはフェイクニュースを撒き散らし、「エリートや専門家の言い分に反対する」「シンプルで力強い解決策を約束する」「大衆の怒りや不安を煽る表現を使う」などで大衆が共感を持つように仕向けます。そして自分に都合の悪いことが起きると「他人のせい」にして、国民を欺くことを平気で行います。一番わかり易い人物で言うと「トランプ大統領」だと思いますが、世情が不安定になっているSNSの時代には、世界中に至るところに同じような社会の芽(不満・不信)が生じているようです。 最近ではトランプ政治の弊害(物価高騰、関税弊害)が顕在化してきたこともあり今、アメリカの最大都市ニューヨーク州では、反トランプ運動が顕在化しつつあります。

今回のニューヨーク州知事選挙で、民主党左派のマムダニ氏が民主党穏健派の全州知事のクオモ氏を破り当選し、トランプとマムダニが中傷合戦を始めています。

トランプは「マムダニは最高レベルの共産主義者で、ニューヨークを破壊しようとしている。まもなくマイアミがニューヨークの共産主義から逃れる人々の避難場所になるだろう」と言い、マムダニは「国民の期待を裏切ったトランプを倒せるのは、彼を生んだニューヨークだけだ。トランプのような億万長者が税金を逃れ、減税を悪用してきた腐敗の文化に終止符を打つ!」と言い返します。対立が更なる対立を生む構造です。これは観方を変えると、中間層が減ってしまい2極化時代に入ったことを示し、このまま対立構造が進むとアメリカは大変なことになります。

民主主義はジレンマを抱えています。

「多数派支配 vs 少数派保護」「自由な競争 vs 社会秩序」「理念としての民主主義 vs 現実的な統治の必要」といった対立構造から生じます。つまり、民主主義は「完成された制度」ではなく、常に調整と改善を求められる動的なプロセスなのです。

多数決や自由な競争を基盤とする民主主義が、逆に少数者の権利侵害や秩序の不安定化を招く可能性を内包しているという問題であり、それらが顕在化しつつあります。
民主主義社会で「保守層(エリート層)・中間層・革新層(不満層)」の3層構造の中で、中間層の比率が6割以上占めていると民主主義の健全性を保てますが、今のように不満層に的を絞ったポピュリストが増えると、過激保守層が増えると共に過激革新層も同様に出現し増えて対立が激化しかねません。アメリカン・ドリームで米国は憧れの国だったのが、今ではアメリカン・ドリームも言われなくなり、衰退の兆しすら感じられる国になりました。

日本でも中間層が減り、新富裕層や貧困層が増えているのが実情です。
「和の精神」を大切にする貧富の格差も小さい信頼社会だった日本が、今ではフェイクニュースが蔓延する社会になりつつあります。日本の年配者は世界で最も騙されやすい人々です。一方で若者には欧米化思考が広がっています。歴史は揺り戻しを繰り返してきたので、子々孫々が夢を持って生きていく社会に揺り戻しが起きることを切に願っています。