■ 「運・鈍・根」と「無用の用」


10月6日のノーベル生理学・医学賞の坂口志文先生に続き、8日のノーベル賞科学賞でも北川進先生が受賞しました。今年は既に日本人二人目の受賞で、これで30人目になります。
同じ年に異なる部門で受賞したのは2部門・2人(2015年)が過去一回あるだけだそうです。
 本当におめでとうございます!  
テレビ番組で知った話ですが、ノーベル賞科学賞の北川先生は、学生たちに常々語っている「運・鈍・根」の実践的な哲学があるそうです。
*運 :「運は準備された心に宿る」というパスツールの言葉を引用し、偶然の発見も日々の積み重ねが引き寄せる。日々の積み重ねがなければ引き寄せることもない。
*鈍 :「すぐに答えを出さず、立ち止まって考え続ける力」が必要である。わからないことにしぶとく向き合う姿勢が大切である。
*根 :「10年後に評価される研究でもいい」“強い思い”をもって、長期的視点で粘り強く取り組むことが重要である。
北川氏はMOF(多孔性金属有機構造体)の研究で世界的な成果を挙げましたが、初期は「つまらないイオン」とされる銅1価を扱っていました。
研究中、学生が「孔が空いています」と言ったとき、普通なら「電気が流れないなら意味がない」と否定するところを、「空間が面白い」と直感し、そこから新しい分野を切り拓いたそうです。
北川氏は学生に「失敗だと思ったとき、それは面白い発見かもしれない。立ち止まり、考え続けることが大切だ。運は準備された心に訪れる。」と常々語っているとのこと。
この考え方は、単なる研究者への助言にとどまらず、人生の選択や困難への向き合い方にも通じるものだと思いました。

座右の銘は「無用の用」とのこと。
中国・戦国時代の思想家、荘子の言葉で、一見意味のないようなものでも実は重要な役割を持っているという意味です。
『人というものは有用に見えるものの価値は理解している。しかし、そうでないものが、実際は人生において価値のあるものだとは気付いていない』(荘子)
考え方を変えるだけで(一見、無用なものでも)役に立つということです。
平成9年に米学会で多孔性材料に関する論文を発表した時に、「そんなの本当かと非常にたたかれ、苦労しました」と当時を振り返ったという話でした。一方で、数々の実験を経て得られた結果だっただけに「一切揺るがず、これからも研究を続けていこう」と強い気持ちを持ち続けたそうです。
“科学を愛し、人を信じ、挑戦を楽しむ”という姿勢が、素晴らしいと思いました。