■スティーブ・ジョブズが師事した禅僧
曹洞宗禅僧・乙川弘文(1938-2002)を御存知ですか?
アップル創業者のスティーブ・ジョブスが師事した禅僧です。
ロス在住のノンフィクション作家・柳田由紀子氏が8年間、二人の師弟関係を見つめ続けた状況が、著書「宿無し弘文 スティーブ・ジョブスの禅僧」(集英社文庫)に詳しく書いてあるようです。
興味のある人は、読んでみてください。
乙川弘文がYouTube動画(弟子からジョブスのことを聞かれて話したこと) :ジョブスが18歳の頃に、乙川弘文を訪ねて深夜にカリフォルニアの自宅を訪問してきた。その時はヒゲモジャで裸足に破れたジーンズを履いていた。上がってもらっていろいろ話しているうちに気が合うこともわかり、ジョブスは「僕は悟ったと感じており、僕はこの感覚とどう向き合うべきなのかわからない。(戸惑っている)そしてそのことをどう説明したらいいのかもわからない。」と相談されて、「今度来る時に、悟った証拠を持っておいで。すると私も話ができる。」ということで別れた。
そして1週間後に同じ格好で、深夜に小さな金属板を持ってきた。(電線の付いたPCチップ部品?)「僕が設計して、友達(ウォズニアック)も手伝って完成した。商品名はLISA(アップル2の後継機種)で、娘の名前をつけたんだ。」と言った。
彼の願いは「僕はどこに行っても、彼(釈迦)と一緒にいたい。だから私を僧侶にしてほしい。」際立つ才能で輝きながら、あまりにも鋭敏過ぎるので、「今はだめだ」と断ってきた。その時期が来たら認めるかもしれない。
二人はジョブスが創業して間もない18歳の頃から40台半ばまで交流しており、個性の強すぎる二人ですが、相通じるものがあったようです。アップルを立ち上げて成功したものの、社員への要求が高すぎて、ついていけない人が多発、最終的にジョブスがアップルを追い出されました。新たにネクストを立ち上げたものの、失敗し続けた苦悩の10年間(1985‐1996)だったようで、その間は禅僧・弘文をすがるように追いかけたとのこと。  
その後アップルに復帰して、新商品を次から次へとヒットさせて、ご承知の通り大活躍を始めました。(iMAC、iPOD、iPhone、iPadなどの開発)
ジョブスが修行しながら学んできたことは下記のことだと話しています。
ジョブズが弘文から学んだことは「周囲と調和すること」「常に修行を継続すること」だそうです。
ずっと座禅修業を続けていると、ある時にストーンと「自分が宇宙の一部」であることがわかる瞬間が訪れるといいます。
ジョブズは「座禅をすると直感の花が開く」との言葉を残しています。
「何か問題を解こうとやり始めると、最初の解決策は非常に複雑で、ほとんどの人はそこで止めてしまう。しかし諦めずに続けて問題について考えていくと、非常に明快で単純な解決策が浮かぶ。ほとんどの人はそこまで時間とエネルギーをかけないだけだ」
ここが天才と凡人との違いのような気もします。
またジョブスの製品や仕事に対するアプローチには「引き算の思考が如実にある」といいます。ミニマムなものに削ぎ落としていくためには、最終的に何か芯がなければならない。そこにこそ“禅の真髄”があるとエンジニアも禅僧も同じことを言います。
弘文はアメリカで禅を伝える時に「宇宙の関係の中で、流れに任す」道を選んだ。混沌とした時代の中で、崩れて敗れながらも、最後まで大乗仏教の「利他の心」でどこまでも真摯に生きようとした。
お釈迦様が言ったこと。
人生は全部「苦」である。全部「無情」である。
諸行無常、ひとときとして同じところに留まっているものはないのに、それを変わらないと思ってしまうところに「苦」がある。
無情だと思えば、楽になれる。それに「欲(執着)」が邪魔をする。
曹洞禅に一命を賭した弘文とジョブスの話でした。