■野中郁次郎氏の二項動態経営 : ヒューマナイジング・ストラテジー
久しぶりに野中郁次郎氏の講演「二項動態経営~人間の潜在力を開放するためのヒューマナイジング・ストラテジー~」を、オンラインで聴講しました。ここ数年は「ヒューマナイジング・ストラテジー」のテーマ講演が多かったのですが、今回あまり目にしなかった「二項動態経営」という新しい言葉が出てきたことに変化を少し感じました。
テクノロジーの進化の反面で、「失われた30年」と表現される長期停滞を続けてきた日本社会。その真因には“動的主体”であるはずの人間の創造性や野生を劣化させてきた“過度の分析や統制(形式知の偏重)”があると野中氏は危機感をもって話をします。この考え方は、ヒューマナイジング・ストラテジーを語り始めた時からの枕詞のようになっています。 
今回はそれに加えて、不確実な未来を生き抜くための価値創造は、「あれかこれか」の二項対立ではなく、「あれもこれも」の二項動態経営による集合的な「実践知」創造で可能になる時代に変化していると新たに提言したように思います。
要は「実践知」の創造が必要な時代になっているように思います。
企業経営を実現する人間くさい戦略(ヒューマナイジング・ストラテジー)とはなにか、絶えず変化する状況の中でも存在意義を常に問い、自己変革できる組織とはなにか、「生き方」としての経営のありようについてと話が進んでいき、「ナラティブ、プロット、スクリプト」の重要性についても論じていました。
そして価値創造主体としての潜在力を最大化するプロセスと、デジタル・AI技術との向き合い方、そのための経営者・リーダーのあり方について、マエストロ小澤征爾の「人間力で最高の音楽を引き出す」事例を示すとともに、いつものように“実践的賢慮のリーダー(フロニモス)”をイメージ図示化して、“冷静な頭脳と温かい心が、抽象的理論と具体的行動の両極間の二項動態を練磨する”との言葉で締めくくる講演でした。
時代の大きな転換点にある“時代の変化”に対応して、88歳の野中郁次郎理論は、まだまだ深まり進化していることがよくわかりました。
今年になって「西洋哲学と東洋哲学の融合」に関するコラムを3回シリーズで書きました。その中で西田幾多郎が西洋哲学を学んだ上で、東洋哲学を基盤においた「純粋経験論(前期思想)」「絶対矛盾的自己同一(後期思想)」について触れましたが、この思想は日本人の西洋哲学者には理解できるものの、欧米の西洋哲学者には理解するのが、なかなか難しいことも納得しました。
それを繋ぐものとして、西洋哲学には「ヘーゲルの弁証法」があり、東洋哲学には西田幾多郎の絶対矛盾的自己同一」があるような気がしています。
また日本の各分野において、「西洋哲学と東洋哲学の融合=デジタルとアナログの融合」を目指してきた方々に、野中郁次郎(経営学)、福岡伸一(生物学)、西田幾多郎(哲学)、田坂広志(物理学)各氏がいることに気付けたことは嬉しいのですが、それらを深堀りすることに限界も感じています。