●宇宙のハーモニー
先日の熊日新聞(2021.10.28)に「クロスロード人生のとき『宇宙のハーモニー』求め」の記事が1ページ掲載。笙(しょう)演奏家・宮田まゆみさんについて書いてある記事にロマンを感じ、非常に興味を持った。
宮田まゆみさん(1954年生)の経歴は以下の通り。
東京都出身。国立音楽大学客員教授。国立音楽大学音楽学部器楽学科ピアノ専攻卒業後、雅楽を学び、1979年より国立劇場の雅楽公演に出演。1983年より笙のリサイタルを行って注目を集め、1987年に芸術選奨新人賞を受賞。その後も東洋の伝統楽器「笙」を国際的に広めるために活動している。古典的な演奏の他にオーケストラとの共演や、現代音楽にも取り組み、笙の音色を通じて多彩な音楽表現を追求している。1998年の長野オリンピック開会式では「君が代」の演奏を行った。
古代ギリシャの音楽観「この世の人間には聞こえない『宇宙のハーモニー』がある」ことを大切にしており「宇宙の根源の音というものがあるが、普通の人間には聞こえない。でも人はそれに憧れて『人間の音楽』で近づこうとする。」という考え方を持っている。
「目に見えるものの奥には、見える感覚を超越した本質としての『イデア』がある。」という哲学者プラトンの考えに通じる世界で、プラトン学派によれば音律の原理を発見したピタゴラスだけは『宇宙のハーモニー」の音を聞くことができたとのこと。
(私はこのとこを初めて知りました)
この宇宙の根源の音を求め続けてきた宮田さんは漢字学者・白川静(1910-2006)氏の『文字学』に出会い、「『文字学』の文字は、記号化した現代の文字とはまるで違い、文字誕生の根源にある生き生きと踊るような躍動感が伝わってきた」ことから古代文字に興味を持ち、2千ページ以上ある白川氏の字書「字通」を購入し音楽に関する文字の調査研究を始めた。「目には見えない神と人間の交感から漢字の成り立ちの根源的な姿を解明した白川さんの『文字学』は、自分が音楽を通して近づきたいものと、非常に近い世界を持っていると感じた。」とのこと。
笙は木製のおわん型の壺に17本の竹菅が挿してあり、うち15本にリードが付いていて、吹いても吸っても音が鳴る楽器。宮田さんは、その笙の魅力を世界に広めた第一人者である。
古典雅楽から現代音楽まで演奏する宮田さんは毎年、海外に招かれ公演。日本と海外の相互理解への貢献で、本年度の国際交流基金賞の受賞が決まった。
「たくさんの音を同時に出すこともできるし、和音を途切れずに連続して演奏することもできます。そうすると豊かな倍音や差音が生まれます。」
いくつかの音が重なると、高い倍音や低い差音が強調される。それは笙からではなく、別世界から聞こえてくるように響く宗教性も感じさせる音だ。
ギリシャでピタゴラスが12音の音律を導き出したのと同じ紀元前6世紀頃、中国でも12音を形成する音律が形成されている。「この音は宇宙から自然界から、あるいは自分の身体の内側から聞こえてくるように感じます。」「調和する和音への反応は、西洋・東洋に関係なく、もともと人間の身体に自然に備わったものではないかと思います。笙を演奏しながら、そのように感じています。」
「古代の人々は、神や宇宙や自然からのエネルギーを受け取って、いろんなものを誕生させてきた。いま私たちもその力を受け取って、また何かに向けて発していきたい。」(ここにも東洋と西洋の接点があったことに驚きました。

演奏法が不明で古い楽譜だけが残る、笙の廃絶曲の復曲演奏を宮田さんは今も続けている。
「文字を蘇らせた白川さんと同じやり方で、鎌倉・室町の人たちの豊かな音楽世界観が生き生きと蘇ってきた。喜びと躍動を感じている。」という。
白川さんと宮田さんのご縁も含めて、ロマン溢れる生き方に感動した。