●河合隼雄 「こころの処方箋」を読んで     
日経新聞の識者の読書欄に分析心理学(ユング心理学)・臨床心理学の権威である河合隼雄氏の著書「こころの処方箋」への識者の感想が書いてあり、興味をそそられたので図書館より借りて読んでみました。
「こころの処方薬」というテーマで「新刊ニュース」寄稿した連載モノに加えて、一部追稿して55編に纏めたもので、臨床を通して経験したことを多様な切り口から紐解いています。肩に力が入っていない文章は示唆に富んでおり、非常に読みごたえのあるものでした。
心理学者であるのに 第1章が「人の心などわかるはずがない」と言っているのに驚きましたが、読み進めるうちにそれほど人間の心は複雑性に富んでいることを実感しました。各章のタイトル(「うそは常備薬、真実は劇薬」「100%正しい忠告はまず役に立たない」「理解ある親をもつ子はたまらない」などなど)だけでも 心に響きますが、内容も人の悩み・心の動きを深いところまで考察していて読み応えがあります。
現在の私が一番共感したのは、第42章「日本的民主主義は創造の芽を摘みやすい」です。
その概要は
『欧米の民主主義は個人主義の確立を前提になり立っています。「対案」が出され全員で討議し、「争点」も明確になり全員で意思決定がされます。
一方で、日本の民主主義は集団主義(和/同調圧力)的な側面が強いようです。「対案」が出されることが少なく、細部に亘る疑問を提示されますが、「争点」が不明確なことが多くあります。集団の全体バランスを保ち、全員参加して役割を超えた働きもするいい面もあります。(参加することで当事者意識を持つ)
このようなやり方には「創造の芽を摘む」という欠点があります。
「創造性とは全体のバランスを壊すこと」ですが、日本では全体のバランス維持に心が向き過ぎて、その芽を摘んでしまいがちです。』
今年のノーベル物理学賞の米プリンストン大学の真鍋淑郎氏(米国籍)が日本で研究しなかった(できなかった)理由に、「日本では若い研究者が創造的研究をやらせてもらえる土壌(資金や年功序列のしがらみなど)がない。私は若くして論文でアメリカから認められて訪米し、当時の最新鋭「IBM高額コンピュータ」も好き勝手に使わせてもらった。だから自分の好き勝手に近代気象学を研究し、幸運にも基礎確立もやることができた。自分は変わり者だから、日本では能力を発揮できなかったと思う。」のようなことを話していましたが、同じ類の話だと感じました。
 このような日本の風土は、悪い面だけではなくいい面もたくさんあります。
日本風土のいい面を活かして、創造性が発揮しやすい仕組みづくりが望まれます。
「個人主義のいい面」と「全体主義(和の精神)のいい面」を融合できると素晴らしいと思います。
近年のアメリカ国民の分断化実態を見ていると、残念ながら世界的に「個人主義の悪い面」と「全体主義の悪い面」が融合するような時代を迎えているように感じます。