■バーチャル美空ひばり新曲発表に思う①
バーチャル美空ひばりが2019年末の紅白歌合戦に出演した。立体映像については少し違和感もあったが、本物の美空ひばりが歌っていると思えるほど似ていることに驚かされた。
その後にNHKスペシャルで「AIでよみがえる美空ひばり」(ドキュメンタリー番組:再放送)が放映され、準備作業を除き1年がかりのプロジェクトであり、バーチャル美空ひばりが作られていくプロセスも見ることができ、AIを活用した再現技術の著しい進化に驚愕するとともに、いろいろ考えさせられた。
目標となる歌手の歌声を収集し、そこに含まれる音色や歌いまわしといった特徴を抽出する。
今回のプロジェクトでは、ヤマハの第一開発研究部が美空ひばり本人の歌や話し声の音源をデータとして使用して、ボーカルパートとセリフパートを作成した。「この楽譜の文脈を与えたらどう歌うか」というのを想定して歌う点がこのAIの最大の特徴であるとのこと。
開発者のインタビューによると、 異なる音源による音質のばらつきを信号処理技術によって前処理を行ったり、音源分離の技術を用いて歌声の音源に混じった 伴奏音を取り除いたり、ボーカロイドの開発過程で培った歌声のための信号処理技術だけでなく、高度なレベルの複数の技術が要求されたという.

 
このプロジェクトが動き始め、新曲「あれから」をプロデュースしたのは、生前最後のシングル曲「川の流れのように」の作詞を手掛けた秋元康。彼が中心になって多くの作曲作品を試聴してイメージを膨らませ、曲を決めた上でフランスに渡航。ひばりのために30年前「川の流れのように」を作詞した時と同じカフェショップで、作詞に没頭した。作詞に盛り込むコンセプトは「あれ以来、ずっと見守ってきました、貴方も頑張ってきましたね」という言葉だった。

肝心の「歌声」は、深層学習技術(ディープラーニング)を用いた「VOCALOID: AI」を開発したヤマハが担当した。 VOCALOID(ボーカロイド)と言えば初音ミクで知られる音声合成技術である。「VOCALOID: AI」はAIを活用したその一種で、ディープラーニング(深層学習)によって歌手独特の癖やニュアンスを含んだ歌声を加える技術である。メインAIのほかに、「音程、タイミング、ビブラート、音色の4つの機能に特化したAI」を配置した。
過去に発売されたレコードを学習させて作成し完成させたが、多様な関係者による試聴評価を聞いて、忠実な再現では「ひばりの魅力である人間味や観客感動」がないことがハッキリと分かった。

この課題解決に向けて更なる詳細分析を行ったことで、ひばりの歌声には高次倍音があったこと(モンゴルのホーミーと同じ)、音程やタイミングを微妙にズラしていたことが分かり、これらを加味することで、ひばりの歌声をほぼ実現した。
次回に続く