■人間の本性
夏風邪が長引く中で、共感の持てる面白い本に出会った。
「人間の本性」という元伊藤忠商事会長で、元中国大使を務めた丹羽宇一郎氏が書いた本である。「まえがき」として書いてあることを抜粋すると、
『人間ほど複雑怪奇で不可解なものはない。
油断すると、人間の中に潜む「動物の血」が騒ぎ始め、とんでもないことをやってしまう。人類誕生以来、人間は「動物の血」をうまくコントロールすることができず、
長きにわたって同じ過ちを繰り返している。
本書ではそんな掴みどころのない「人間の本性」というものを、さまざまな断面から考察し、そんな人間といかに付き合い、生きるべきかを私の体験談を交えながら綴ってみる。』

私自身が思っていることがたくさん書いてあり、私に近い価値観を感じている。
その中で、私にとっても新たな視点を与えてくれた、新鮮だった内容を取り上げてみたい。一番インパクトを受けたのは「ユートピア(理想郷)」についての考えである。
『人間は「動物の血」と「理性の血」の両方を持っており、いざという時は「動物の血」が強くなる。
SFで描かれているような「ユートピア」は争いはなく平和だが、その世界は徹底的に管理された社会である。巧妙に管理されているがゆえに、秩序が保たれ平穏な社会が実現している。
その代わりに自由というものが制限され、公の秩序に反するような行為は全くできないという厳しい環境下になる。
自由のない世界が、どんなに息苦しいか想像ができると思う。』

これを読んで、まず頭に浮かんだことは、まさに今中国で進行中の監視社会の先にあるものである。人は「ユートピア」に憧れるが、実は「ユートピア」に待っているものは「人間らしくない社会」なのだと確信した。もし、このような社会が一時的に実現したとしても、いつか必ず壊れる(人間が壊す)社会だと思った次第である。

例えば中国ではアリババの信用スコアシステム(芝麻信用)があり、この社会信用システムのせいで航空券や鉄道のチケットを売ってもらえなかったり、NPOなどの組織の立ち上げが禁止されたり、特定のデートサイトが利用できなくなるといった事態が現実に起きている。(一方で、スコアが高ければさまざまな「特典」が受けられるようになっている。)
ブラックボックスが問題視されている「AIのデータ分析や画像分析」は、誤判断を発生する可能性を秘めており、誤判断やレッテル張りに遭ったらたまったものではない。
このシステムを、中国では政府がより広範な「社会信用システム」なるものの構築を進めている。人々を日々の行動などさまざまな基準で採点し、14億人いる中国国民の「信用度」を査定することが最終的なゴールだ。
もしかしたら既に我々の世界でも、GAFAなどが多様なユーザー情報を活用して裏で類似のことをやっている可能性もあり得る。
イギリスでのクレジットスコア(金融機関が与信審査で参考にする数値)はクレジットカードやローンの申請の判断にしか使われない。日本でも信用スコアシステムが導入され始めているが、是非ともイギリスと同じレベルに留めてほしい。

そしてもう一つ、大いに刺激を受けた言葉がある。
『好奇心を失うのは死ぬ時でいい。知的好奇心の最終的に行き着く先は「人間とは?」という
根源的な問いでは?』

今まさに、私が直面している大きな課題の一つが「人間とは?」である。