■コンピュータが人類を超える日

 先日、熊大の先生から機械学習に関する話の中で、「一人の人を超える人工知能(AI)は2025年に、全世界の人類を超える人工知能は2045年にできるとの予測がある」との話を聞いた。
いろいろ調べてみると、AIの第1ステップ(1960年前後)では、コンピュータに「推論」する力を与えたが、それだけではたいしたことができなかった。また第2ステップ(1980年代)では「知識」を与え、専門家のような判断を下せる「エキスパートシステム」が開発されたが、これも思うように進化はできなかった。両方共、以前、よく聞いたことのある言葉ではある。
そして現在のAIが急速に進化している第3ステップでは、コンピュータが自分で「概念」を獲得する「機械学習」ができるようになった。その要因として、@第1ステップの「推論」能力が半導体の進化で飛躍的に高まったこと、A第2ステップの「知識」の面で、インターネット上の大量かつ最新の情報(ビッグデータ)を使えるようになったことがある。加えてカナダのトロント大学のジェフリー・ヒントン教授が、ニューラルネットを用いた「ディープラーニング(深層学習)」によって、機械学習の効果を飛躍的に高めたことがある。



  また最近のNHKニュースでは「バトル オブ ザ クオンツ」、人工知能を使った株取引の実態をレポートしていた。瞬きの瞬間(0.5秒)に、一万回の取引ができるそうで、常に学習してレベルアップするそうである。そして人工知能を使った株取引がアメリカ株式市場取引の50%を超えたとのこと。おまけに全てのAI取引企業の収益性は20%〜30%あり、他の取引に比べると、群を抜いた収益性とのこと。更に遺伝子解析が専門の大学教授が、更に有効な人工知能クリスタルを開発し、投資ファンドを設立したとのことである。
マネーゲームも、行き着くところまで来たようであるが、何らかの規制をかけないとバーチャルマネーがますます肥大化し、実体経済破壊が進み後戻りできないように感じている。
当然のことであるが、日本でも裏では普及し始めていると想定される。
 
 人工知能に関しては、肯定的な見方と、否定的な見方をする学者に分かれているようである。
AI研究を行っている松尾豊氏は、著書『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』(KADOKAWA/中経出版)の中で、「AIは人間の持つ本能、つまり快不快の感情を持たないことが決定的に違う」「『人間=知能+生命』であり、いくら知能を作ることができても、生命を持つことはできない。AIが自らの意思を持ったり、AIを設計し直したりすることは、今のAI研究のレベルからはかけ離れている。人工知能が人間を征服したりしない」と語っている。
その一方で、AIはあまりの革新性の高さに恐れられてもいる。2045年には、AIが人類の知能を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)を迎えるといわれており、論理物理学者のスティーヴン・ホーキング博士、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏、テスラモーターズのイーロン・マスクCEOなどが、「このままAIが進化すると、人類に悲劇をもたらす」と警告している。
ホーキング博士は「人工知能が自分の意志をもって自立し、そしてさらにこれまでにないような早さで能力を上げ自分自身を設計しなおすこともあり得る。ゆっくりとしか進化できない人間に勝ち目はない。いずれは人工知能に取って代わられるだろう」「人工知能の発明は人類史上最大の出来事だった。だが同時に、『最後』の出来事になってしまう可能性もある」と語っている。
 
 人工知能は、実用においてビッグデータとIoTとの関連性が強くあるように思っている。これらの進化が相乗作用的に進むことにより、人間を超えるような現実に直面することになると想定されるが、総合的に考えると、どうもほんとうの意味で人間を超えることは難しいようにも感じる。
日経ビジネスに記載されていた実用化が見込める分野としては、予測技術の高度化・高精度化が見込まれるようである。
@先回り広告: ビッグデータと機械学習エンジンに基づいたインターネットのリターゲッティング広告が急成長

A需要予測:
センサーや分析技術を利用して、顧客の注文を高い精度で予測。廃棄ロスや在庫の大幅な削減に成功している

B故障予測:
センサーの利用とデータの蓄積が進み、一層精度の高い故障予測アルゴリズムが研究されている。誰でも熟練技術者並みの判断ができるようになりつつある。

C犯罪予測:
メールを監視して犯罪を防止するシステムや、音声分析の技術で詐欺師からの電話を予測する仕組みが登場した。

D経済予測:
ビッグデータの利用によって、物価や景気など経済指標の集計がスピードアップしている。とはいえ株価の予測には効果を上げていない。

E予防医療:
遺伝子検査キットが低価格になり、ゲノム医療や生活習慣への助言への期待が高まる。一方で、健康診断や病歴に関連するデータがバラバラに管理されていることが、大規模で精緻な統計分析をすることのネックになっている。

F収穫予測:
米国では気象や土壌のデータを組み合わせた収穫予測モデルが開発され、農家ごとの収穫量補償の保険や、最適な種蒔き日などの助言サービスを販売。日本でも農業法人が収穫予測システムのテスト利用を開始。

G天気予報:
計算機の性能の向上、予測モデルの改良、入力データの品質チェック、気象観測衛星の能力向上などの多面的な対策により、予測精度を継続的に高めてきた。