■未来社会への視点/オムロン創業者・立石一真氏から学ぶA

 オートメ化創業30年記念の時に立石一真氏が執筆した「未来社会への視点」の全文を、今回から4回に分けて紹介していく。今回が初回である。

 私は、経営者の仕事はたくさんあるが、その中で一番大事なのは、自分の企業を将来どの方向にもっていくかを考えることだと思っている。
日本は、いま工業社会から情報社会へと大きな潮流―メガトレンドが流れているので、ソーシャル・ニーズをしっかり見極め、自分の企業をこれに乗せていかなければ、せっかくの努力も報われないということになる。このメガトレンドに乗せるために、私達はどうしたらよいか、それを考えてみたい。


 
  立石電機が開発した未来予測理論
京都では、100年以上も続いている企業が400社以上もあるといわれている。
そういう具合に生きのびてきた企業の経営のやり方、あるいは非常にスピーディーに成長してきた企業の経営のやり方、また何かの原因で潰れてしまった企業のやりかたを分析し、集大成してみると、そこに一つの経営学ができる。しかし、これはあくまでも過去の企業の軌跡にのっとった経営学(過去学)であり、果たして変動する未来にも役に立つかどうかは、もう未知数である。
そこで私は未来学に着目した。そして昭和45年に、(1970)未来予測理論としてシニック(SINIC)理論をまとめ、その4月10〜16日の行われた第1囘国際未来学会で発表した。シニックとは、Seed-Innovation to Need-Impetus Cyclic Evolutionの略で、日本語では「イノベーション(技術革新)の円環論的展開」ということになる。

 
 人類が地球上に現れてから今日までの歴史をみると、科学と技術と社会の間には、円環論的な関係がある。というのが基本的な考え方である。それはどういうことかというと、新しい科学が生まれると、その科学に種(Seed)をもらって新しい技術が展開される。その新しい技術が社会に影響を与えて、次第に社会を変貌させていく。これがイノベーション(革新)である。まず、こういう順序の一つの方向がある。
もう一方、逆に社会からニーズ(必要性)が出てくる。これがソーシャル・ニーズである。そしてこのソーシャル・ニーズを満足させるための新しい技術が開発される。
その場合、必要であれば、その技術からインピタス(刺激)を受けて新しい科学が生まれることもある。これが逆方向の相互関係である。

 このように科学、技術、社会の間には、二方向の相互関係があって、お互いが影響しあって社会が変貌し発展していくというわけである。つまり、技術を媒介として、科学と社会が円環しあっているのである。そして、それを推進しているのが、進歩を志向しているわれわれの意欲である。