■ソーシャルメディア・マーケッティングD

 我々は、昔は想像すらできなかった製品や技術の出現で、技術的、社会的、経済的、政治的な変化を経験してきており、イノベーションの数々で生活は大きく変わった。そこで、「イノベーターが新たなアイデアを生み出す時に何が大切か」の問題意識を持っていた時に、エドワード・デ・ボノが書いた「水平思考の世界」に大いなる刺激を受けた。あることを突き詰めて考える垂直思考よりも、いろいろな視点から考える水平思考のほうがアイデアを生み出しやすいことが書かれており、共感を覚えたとのこと。

エドワード・デ・ボノ

 例えば、シリアルメーカーが新しいシリアル製品を考える(垂直思考)のではなく、シリアルを使って他に何ができるか考える(水平思考)ことにより新たな発想が可能となる。日本のユニチャームが生理用品から始まり、子供用おむつや大人用おむつ、ペットシートなど吸収体を軸にして水平展開していることなどの事例を紹介している。
いろいろな事例を考察し、イノベーティブな組織づくりのモデルを「イノベーションのAtoF」としてまとめた。
この「AtoF」とは
*アイデアを思いつく人(アクティベータ)
*本当に創造的で刺激的なものかを吟味する人(ブラウザー)
*試行可能なコンセプトに変える人(クリエーター)
*ビジネスモデルに発展させる人(ディベロッパー)
*新製品や新事業を立ち上げる能力のある人(エグゼキューター)
*資金を供給できる人(ファイナンサー)
である。

 イノベーションの真髄は、ジョセフ・シュンペーターが指摘した創造的破壊である。昔はゆっくり変化したが、今は多くの業界で劇的・破壊的な変化が起きている。大学においても、オンライン講座が学問を学ぶ場として始まっており、今後は大学にも劇的な変化をもたらす可能性が高い。ネット社会になり、コラボラティブ消費(協調消費)などのシェアビジネスは、消費者同士が貸し借りをするという、従来の商習慣とは次元が違っている。どの企業も既存の事業を破壊しかねない新たな脅威に、敏感であるべきである

  30回にわたる最後の締めは「感謝」というテーマで終稿している。
印象深い日本の偉大な創業者として松下幸之助(パナソニック)、井深大(ソニー)を上げるとともに、尊敬する
ピーター・ドラッカーの名前を挙げている。
経済的繁栄を多くの人々に」を目的にした学問として経済学を位置付けているが、貧富の差」は目に余る現実が歴然と存在すること、「持続可能性や綺麗な空気や水を守る」という重要な問題が抜け落ちていることなど、今からの社会への危機感を表明している。

 今からの社会に必要な新たな経済学として、「行動経済学」と命名されているが、「マーケッティング」の別称だと思っている。
「多くの経済学者がマーケッティング理論の発展やその実践に目を向けるようになれば、新たな理論や発見が生まれる。それがより良き社会の構築に役立つことだろう。」という言葉で締めている。
コトラーも、時代の変化に基づきマーケッティング理論も変化・成長・発展していくものと捉えているが、今は「SNSの急激な進化」や「ソーシャルメディア的発想」がマーケッティングに与える影響が大きく、マーケッティング理論も大きい変遷期を迎えていると考えており、私自身としてもその推移を見守っていきたい。