■日本が世界平和に貢献するH「独走する日本」日下公人著より
  ―長く住んだ外国人は日本を褒めている―

  自分のことはなかなか自分ではわからないものである。
 「日本精神」というのは、特に日本人自身ではなかなかわからない。外国人が言って
 くれるほうがいい。
 これをやりだすと、まず出てくるのは江戸時代か、もっと前にやって来た宣教師が、
 日本について書いた文献である。あるいは明治になってから、イギリス公使や
 アメリカ公使が書いたものがある。「日本というのはこんな国だ」と、だいたいは
 なかなか褒めている。
  
  そう書いてもらえたのは、もちろん日本人が高尚だったからだが、しかし考えてみると宣教師は神様の
 教えを広めに来て、日本に骨を埋めるつもりで、暮らしながら見ている。それから当時、公使は任期十年、
 二十年が常識だった。十年、二十年はそこで暮らすから、日本のことをよく勉強したらしい。長い時間を
 かけて見ているから、本質をよく理解した。これは外務省に当てこすって言っているが、外務省の人は
 みんな任期が二年ぐらいでパッパと変わってしまう。後がつかえているからと追い出される。だから大使は
 相手の国のことをあんまりよく知らない。
  私の経験でも、大使、公使は相手の国のことをよく知らない。政府関係の調査団などで大使館へ
 行くと、「この国は」と言って渡してくれるプリントの説明文が、JTBの旅行案内と同じ。人口はいくら、
 面積はいくら、GNPはいくらなどと、そんなことは誰でも知っている……、知らなくても簡単に調べられる。
 そういうどこにでもあるデータをくれるだけで、大使が持っている深い知識と分析はどれだけあるのかと
 考えると、多分ない……というのが私の印象である。そういう印象を持たれないように、これから頑張って
 ほしいと思う。
 
  さて、江戸時代や明治時代に外国人が書いた日本論を見ると、まずは「あべ
 こべ物語」というのがある。これはなかなかおもしろい。のこぎりは日本では
 引くが、向こうでは押すといった類の話。
  もう少し深くなると、「日本人の心の奥底はこうではないか」というところまで見て
 書いたのがある。だいたいは「礼儀正しい、相手のことを思いやる。争いごとになら
 ないように折り合いをつける暮らし方を、ここの国の人は全員が共有している」と
 述べている。「工業的技術や数学を自分で発達させている」「したがって機械を
 見せるとすぐに分解して理解する」「哲学的宗教的論争ではキリスト教のほうが
 負ける」「民主主義ではないが行政は知的である」「芸術は素晴らしい」「子供を
 大事に育てる」「武士はプライドが高い」「好奇心が強い」。その他いろいろなことに
 たいへん感心して「こんなすばらしい国が世界の中にあったのか」と言う人もいる。