■新たな気付きD :バリアアリー??
 「高齢者・身障者にバリアフリーな施設を!」などというと、誰もが正しい方向の話と思いがちであるが、入院中にテレビ番組を見ていて、「今の方向に進んでいくことが、本当に高齢者・身障者の幸せに繋がっていくのだろうか?」とか、「真の人間性尊重とは?」など、改めていろいろ考えさせられた。
 高齢者・障害者に負担を掛けないようにとバリアフリーの施設にすることで、逆に高齢者・障害者の持っている能力を低下させているのではないか。介護士が過剰なサポートをすることも、結果的に高齢者・障害者の持っている能力を低下させているのではないか。もしかしたら、介護担当は自分の仕事を効率化するために、早めの過剰な介護をしているのではないか。介護サービスを受動的に受けることで、高齢者・障害者は自立性をなくし、依存心を強めているのではないか。もしかしたら、過剰な環境整備やサービスを充実することは、高齢者・障害者の保有能力を劣化させたり、依存心を強めたりしているのではないか。もしかしたら、バリアフリーな施設は作らないほうがいいのではないか、など考えさせられた。

 このようなことを考えたキッカケの番組は、テレビ朝日の「バリアアリーの介護施設」という番組である。この番組で紹介されたのは、山口県山口市にある「夢のみずうみ村」と名付けられたデイサービスセンターの話だった。
               「夢のみずうみ村」http://www.yumenomizuumi.com/
 常識ではバリアフリーの施設にするために、エレベーターを設置したり、手すりを付けたりして、障害者や高齢者に負担を掛けないような施設づくりを目指すのだが、ここでは逆である。
家に籠もっては駄目、外に出ることで生活のリズムができる、外には危険がいっぱいだから、外に出る危険を克服したい施設が必要と、創設者の藤原さんは考えたとのこと。まさにバリアアリーの施設は、「人生の現役養成道場」なのである。

ホームページに掲載されている「夢のみずうみ村での過ごし方」を写真も含めて、以下に紹介する。
@到着後に施設に入り、自分の箪笥に自分の持ち物を入れることから始まる。施設各所に自分の持ち物を保管するタンスが準備されており、これに荷物を保管する。認知度の低い人には色分けしたものも用意されている。歩行の自由な人のタンスは遠くに設置してあることもある。歩いて行くのもリハビリである。このタンスがつたい歩きの助けになるように配置されている。
A予定を立てる。気の合った人同士同じメニューを立てることで、「わいわい、がやがや」できる利点がある。メニューは数え切れないほど用意してある。「何時にあんまをしようかなぁ?」など、職員と会話しながら予定を立てる。なお、職員の行うメニュー(ほぐし、あんま)以外は途中で変更しても構わない。「疲れたからここで休憩しよう」、「あっちのメニューの方が面白そうだ」など、自分の意思で変更することもできる。
Bバイタルチェックをする。ここでは自分の血圧は自分で計測して報告する。体温も自分で計測する。このバイタルチェックを自分ですると、村独自の通貨「ユーメ」を10ユーメ貰える。(「ユーメ」とは、当施設独自の地域通貨であり、「ユーメ」を利用して日々の活動に利用している。稼ぐメニュー、使うメニューをいろいろ用意してリハビリやボケ防止に役立てている。)
C午前中は、予定に従って好きな行動をする。パソコンの初心者コースに参加したり、片手の料理教室に参加したり、温水プールで健康体操など、午前中に行われるメニューに参加する。職員から「こんなメニューを用意したのでやってみませんか?」の声かけはあるが、「これをやりなさい」「これをやりましょう」は一切なし。あくまで自分の意思が尊重される。予定を立てた上で「ボーっとする」のは構わない。お茶を飲むのも自由意思である。必要な人には、職員がそっと「水分をとりませんか?」と声をかける。
Dここの昼食はバイキング方式である。その日の利用者さんそれぞれの茶碗、湯のみ、箸が各自の保管箱に入れて積み上げてある。街角広場の中央に、ご飯、おかず、味噌汁、漬物、お茶など鍋、大皿に入れて並べてある。各自、好みの量を盛り付けて、周りのテーブルに運んで食べる。移動にはワゴンが用意され、杖なしで移動する。食事が済むと、自分で下膳をする。時には、自分で作って食べるメニューも用意されていて、これも生活に必要な「リハビリ」である。「お食事の時間ですよ」のお知らせは最近廃止された。おおよそ時間に集まって、準備できていれば食べる。遅く行って混雑をさける。などなどで、だいたい1時までには終了。
E昼食が終わると帰る時間まで朝立てた予定に従って自分で行動する。パソコンを勉強して村の新聞を発行する(月1回発行)人もいる。ご希望は村役場まで。ホームページに挑戦する利用者も多く出てきた。マージャンをしたり、囲碁をしたり、午後に設定してある「デジカメ教室」「パンづくり」、時には「果実酒づくり」などのメニューもある。団体行動の強制は一切なし。3時前になると、自分の茶碗・箸・湯のみを捜して保管箱に戻す。これをすることで「YUME」がもらえる。3時頃から村のカジノが始まる。ここで、YUMEを稼ぐ人もいる。おやつも材料が用意してある。「たこやき」「ホットケーキ」「いも」「ミカン」「リンゴ」・・・・日によって異なるが、自由に食べ適当にお茶を飲み、時間がくれば帰り仕度を始める。
F帰りの時間が近づくと、適当に帰り支度を始めるが、「お帰りの時間です」の合図はない。4時出発が明記されているだけで、時間のかかる人は早くから準備することも自由である。朝と帰りの送迎車は順路によって異なり、自分で車を確認し乗車する。ここでも職員は見守りと手助けだけ。送迎車に大きく描いてある「夢」の字は、1台1台異なっている。自分が乗る車の確認方法はデジカメで撮影した車の写真に各自の名前が表示されているので、「夢」の字の色と車のナンバーを記憶し、乗車する。「お帰りの時間ですよ」「準備してください」のコールはなし。「帰る時間だから後始末をしようね」と、お互い声を掛け合っている。あくまでも利用者主体。遅れることもなく、予定時刻には出発できる。ご自分でできることはご自分でする。どうしてもできない部分は、職員が手伝いをする。これによって自立の意識が芽生えてくる。
                               (写真は「夢のみずうみ村」HPより抜粋)
 
 リハビリとは、「生活できる能力」を維持・向上させることで、身も心も生きるエネルギーを再生産することである。そして人は、自分が人のためになっている、役になっていると考えれば、気持ちよく働ける。お金のためだけではモチベーションを保てないし、心からの喜びもない。人間の尊厳を認められれば、ストレスも無く、人は思う存分、能力を発揮できる。自分の好きなこと、やり方、自由さが尊ばれれば、ストレスも激減、医療費も激減するであろう。
 今の介護施策では「寝たふり老人が、寝たきり老人に」などといわれているが、バリアアリーの考え方で運営される施設が増えることは、高齢化社会に明るさをもたらすことになると思ったりした。
とはいいながらも俯瞰的な見方をすると、高齢者・身障者といっても様々な要介護レベルの人々がいるわけであり、バリアアリーが有効なケースと、バリアフリーが有効なケースとがあるように考えられ、状況によって使い分けることが大切ではないかと考えた。