■飲料・食料編@
  ケーキと小説で独自の味わいのビジネス起こす

「東京でどんなに良いお菓子を作っても故郷がありません。私どもには故郷があるのです。気がつかなかったのですが、戦ってみたら、それが凄い財産ということに気付きました。」と一風変わった経営戦略論を披露するのは洋菓子製造業(有)フェスティバロ(鹿児島県鹿屋市、従業員31名)の郷原繁樹社長。
同社は、昭和62年に郷原社長が設立、同県特産の「唐芋(からいも=さつまいも)」を主原料とした生菓子の製造を得意としてきた。ソフトでクリーミーな味わい、添加物を一切使わない健康志向、センスの良い形状と包装などが「おいしくて美肌を守ってくれる」とのスチュワーデス達の口コミをきっかけに若い女性のファンをつかみ、主力の唐芋レアケーキ「ラブリー」シリーズは鹿児島空港はじめ羽田空港以西の主要空港でトップ又はトップ級の売上げを連続して記録するまでになった。

「美しい大隈半島から唐芋菓子をお届けします」という同社のホームページのトップコピーが物語るように、同社は地元・大隈半島の直営農場・契約農場で有機栽培された唐芋約30種のみを原料に、イモの選別・ペースト加工から製造まで一貫生産を行っている。品質には徹底してこだわり、ブランドの確率に細心の注意をはらっている。この地元の農場こそがケーキの故郷なのだ。いわばケーキの地場産業だ。故郷を持たない他の菓子に対し、身近に故郷を持つ点を競争力にしてきたのだ。
郷原社長は作家の顔も持つ。若い頃から文学を志し、東京で働きながら小説を書いてきた。44歳の時、一念発起し、故郷で洋菓子作りを始めた。同社設立後も作家活動を続けており、これまで15冊の著作を世に出している。普通なかなか困難な「経営と創作」を両立させながら、若い作家の創作支援も行い、地域の活性化への貢献とメセナ活動に力を入れる。
地場の特産品「唐芋」の持つ旧来のイメージから、経営者の文学・芸術への造詣の深さを活用しつつ、ハイセンスなブランドイメージの構築を成功させて独自のビジネス文化が生まれている。多彩な才能を発揮する郷原社長の地元へのこだわりの姿は新しい形の地域経済振興のモデルでもある。