■未来を予見する「5つの法則」
 世界の経済情勢の更なる悪化も懸念される中、国内では民主党政権による国の仕組み変えへの「未知への挑戦」が始まり、各省庁分野での全面見直しが行われつつある。海外に目を向けると、アメリカ・オバマ政権の内外政策の抜本見直しも現実に直面する中で苦戦している。中国が経済的な大躍進を果たす一方で、内在問題の深刻化も急激に進んでいる。
 このように、ますます混沌とする時代を迎えている昨今の状況を踏まえて、今からの世の中のあり方を見据える上で、「未来を予見する5つの法則 〜弁証法的思考で読む次なる変化〜」(光文社発刊)を紹介したい。
 著者は田坂広志氏、58歳、民間主導による新産業創造をめざし、「産業イノベーション」をかかげて、新事業の育成を手がけている人である。2008ダボス会議を主催する世界経済フォーラムの国際アドバイザリー・ボードに選ばれた人のようである。
私もよく知らない人ではあったが、昨年11月にこの本と出合うことができ、私自身が漠然と感じていたことが、分かり易い事例を含めて書かれており、大いに共感すると共に感動させられた次第である。
        アリストテレスが「万物は流転する」と言ったが、弁証法とは「物事を静的ではなく、動的に見ること」である。
田坂氏の理論は、ヘーゲルが確立した弁証法をベースにしていることで、相反する事象(テーゼ、アンチテーゼ)を止揚することで、別次元に発展すると言うこと。「止揚(アウフヘーベン)」とは、互いに矛盾し、対立するかにみえる2つのものに対して、いずれか一方を否定するのではなく、両者を肯定し、内包し、統合し、超越することによって、より高い次元に昇華することである。(融合定義=ジンテーゼ)
経営において例えると、松下幸之助が「利益の追求と社会貢献の両立」、「品質向上とコスト低減の両立」を語っていたことと同じ考え方である。日本の製造業は、この考え方を実現しつつ高度成長期を乗り切ってきたわけである。
この本の趣旨は、
未来は「予測」できないが、「予見」はできる。すなわち、弁証法的思考から「5つの法則」を見出し、それを駆使することで、「未来の具体的な変化」は予測できないが、「未来の大局的な方向」を予見することはできる。従って、この五つの法則を活用することで、各人が今からの社会のあり方の方向を見出すことが可能となると論じているが、興味のある方は、是非、この本を購入して読んでいただきたい。
「一読の価値ある新刊書」を紹介するトップポイント2008年11月号(潟pーソナルブレーン発行)に記載されている概要説明部を以下に転記しておく。
   
 経済、社会、科学・・・。世の中の様々な分野において、これから何が起こるのか?
 「弁証法的思考」を用いて未来を予見する。

  ◎「弁証法」は、次の5つの法則を教えてくれる。
    @「螺旋的プロセス」による発展の法則
     世界は、あたかも、螺旋階段を登るように発展する。
    A「否定の否定」による発展の法則
     現在の「動き」は、必ず、将来、「反転」する。
    B「量から質への転化」による発展の法則
     「量」が一定の水準を超えると、「質」が劇的に変化する。
    C「対立物の相互浸透」による発展の法則
     対立し、競っているもの同士は、互いに似てくる。
    D「矛盾の止揚」による発展の法則
     「矛盾」とは、世界の発展の原動力である。

  ◎弁証法の5つの法則を基に未来を予見すると、例えば、次のような未来が見えてくる。
    ・「貨幣の経済」に対し、「善意の経済」が影響力を増す。
    ・政治、そして経済と文化の分野で、「直接民主主義」が実現する。
    ・誰もが、自分の中に眠るいくつもの才能を開花させることができる「ダ・ヴィンチ
     社会」が到来する。
    ・単一の価値観にこだわる「イデオロギー」の時代から、様々な価値観を認める「コス
     モロジー」の時代に向かう。
    ・「一神教」的な宗教システムが、「多神教」的な宗教システムへと原点回帰していく。
    ・「機会論的世界観」に基づく科学ではなく、「生命論的世界観」に基づく科学が主流
     となっていく。
    ・人類の「古い文明」の中に宿る「生命論的な智恵」が甦ってくる。