■犬子(いんご)ひょうたん祭り
 
 私は熊本県山鹿市の出身で、小学校3年生の夏休みまで住んでいました。山鹿では昔から、6月15日に「犬子ひょうたん祭り」があります。八坂神社のことを「祇園さん」ともいい、この祭を「祇園さん祭り」ともいうようです。今年も例年通りにテレビや新聞に祭のことが書いてあり、いつもは受け流すのですが、なぜか今年は行ってみる気が起こり、数十年ぶりに行ってきました。
 祭は夕方から始まるのですが、非常に混雑するので、私は家内と一緒に昼間に出向き、関係者が祭の準備をしている中で、神社境内で「犬子ひょうたん」と「竜神」の厄除け御守を買って帰りました。
「犬子ひょうたん祭り」について少し調べてみたので、書くことにしました。

山鹿灯籠祭りの様子
 
 熊本県の北部に位置する山鹿市は、土蔵造りの商家などが軒を連ねる豊前街道や、温泉が点在するノスタルジックな街です。明治時代から先進的な町で、熊本でもいち早く新盆を採用したそうです。千人灯籠踊りで知られる「山鹿灯籠祭り」で有名ですが、もう一つ、地元の人々になじみ深い夏祭りがあります。それは、大宮神社の境内にある八坂神社の「犬子ひょうたん祭り」です。
 八坂神社は、古くより疫病除けの神さまとして崇められてきた神社です。京都の八坂神社を総本社とし、スサノオノミコトを祭神とする神社が、日本全国に約2,300社あるといわれていますが、当地の八坂神社もその一つで、江戸の中期頃、山鹿中村の阿蘇品家の祖先が、京都の八坂神社を勧請して祀っていたとのことです。
 
 この祭は江戸末期のある年、山鹿に疫病が流行しました。あらゆる疫病退散の祈願をしてもその勢いは衰えることなく、里の人々は困り果てていました。そんな折、ある里人の夢枕に祇園の神様が現れ、「現在の祠(山鹿中村)は、低地で不浄である。小高い杉山の地へ宮居を移すように」と告げました。
そこで人々は、八坂神社を現在の大宮神社境内に造営し、遷座(神仏の座をほかへ移すこと)することにしました。するとその時どこからともなく一匹の子犬が現れ、神輿のそばを離れず行列に付いてきました。長い道中で子犬が疲れたので、ひょうたんの御神酒を少し分け与えると、すぐに元気になりました。大宮神社に到着し、遷座が無事に済むと子犬はいつの間にか姿を消していました。そしてその後、あっという間に疫病は終息。
里人たちは「あの子犬は、祇園さんの化身か使いの者に違いない」と言い、祇園さんの好きな酒を入れるひょうたんを抱いた子犬の姿を米の粉でかたどり、御守として部屋に飾って無病息災を祈願するようになったそうです。
  
八坂神社




 
 この祭りの日だけ受けることが出来る無病息災の御守「犬子ひょうたん」を受ける多くの参拝者で賑わいます。また御祭神スサノヲノミコトの大蛇退治にちなんで竜神の御守もつくられるほか、子犬にちなんでペット用の御守も授与されるようです。
そして、この祭りが催される6月15日は「初かたびら」と呼ばれる浴衣おろしの日でもあります。子供たちや女性が浴衣姿で参拝に訪れ、この日だけ売られるお守りを買い求める様子は、初夏の山鹿の風物詩の一つです。明るいうちに参拝し、暗くなってから帰る「あこくろ」という風習のため、今でも夕暮れ時に参拝する人が多く見られます。また、この日に小雨が降るとその年は豊作になるともいわれています。

           
         犬子ひょうたんの御守        竜神の御守