火をつくるのが容易でなかった昔。日本人の感覚には「きれいな清い火」と「けがれたきたない火」とがあった、と民俗学者の柳田邦男は書いている➤出どころを重んじ、<どんなに気をつけて保管していても、いつの間にか神様には上げられない火になってしまうことを、日本人は非常に恐れていた。>凶事でけがれたと感じれば、<わざわざそれを消して「火をあらためる」ということをたびたびしました。>(『火の昔』角川ソフィア文庫)➤いま日本のあちこちに「清い火」がともる。1週間後に開幕する東京パラリンピックの聖火だ。ギリシャで火をおこす五輪と異なり、全都道府県で採火する。パラリンピック発祥の地とされる英国スト-ク・マンデビルから届く火とともに、東京で一つになる➤各地で長年守られている日も聖火となる。山形市の立石寺で1200年続く「不滅の法灯」、前回東京大会の年に広島市の平和記念公園にともされた「平和の灯」、阪神大震災で被災した神戸 市から分灯を受けた岩手県陸前高田市の「3・11希望の灯り」・・・➤新型コロナウイルスの感染拡大を受け、一部の自治体は採火を写真や動画で届ける。開会式や競技も原則、無観客となる。それでも聖火に込められた思いや、パラアスリ-トが積み重ねてきた努力の価値は変わるまい➤「失ったものを数えるな、残されたものを最大限に生かせ」。パラリンピックの父と呼ばれるユダヤ人医師・ル-ドウイッヒ・グッドマンの言葉は、声援を送る側にも響く。
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