■イノベーション考B
 
 このイノベーション考で、『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』を題材に書いている最中に、「アップルのスティーブ・ジョブズがCEO辞任」のニュースが流れて驚かされた。辞任の理由は、「アップルのCEOとしての義務と期待に応えられなくなった。」とのことである。一人の人間のCEO辞任が、世界的企業に与える影響の大きさを憂慮されているが、アップルが今後、どのように展開していくのか、興味を持ってみていきたい。
 今回は、『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』の著者カーマイン・ガロ氏が、日経BP記者のインタビューで述べている『アップルの秘密は「組み合わせの妙」にある』の記事から抜粋・流用しているが、先ずは著者が「なぜイノベーションをテーマにした本を書こうと思ったのか。」から始まる。

 2008年の世界金融危機(リーマンショック)以来、米国の実体経済は不況にあえぎ、いまだに停滞局面を脱しきれていない。米国では依然として何百万もの人々が職を失ったままで、カード破産や住宅バブルのツケを払わされている人も少なくない状況にあり、ガロ氏は常々、アメリカ社会の閉塞感を何とかしたいと思っていた。
そんなある日、米ニューヨーク・タイムズの著名エコノミスト、トーマス・フリードマン氏が執筆したコラムの中で、「イノベーションと起業家精神に対する憧れを、天才だけでなく何百万ものアメリカの子供たちに取り戻してもらう必要がある。」そして「We need more Jobs(私たちは、もっと雇用とスティーブ・ジョブズのような人材が必要である)」と書いてあり、その記事を目にしたガロ氏は「イノベーションとスティーブ・ジョブズ」というキーワードが組み合わさったようである。
 確かに、米アップルのスティーブ・ジョブズCEO(最高経営責任者)は、多くの米国
企業が不況に苦しむ中で業績を伸ばし続けている稀有な経営者であった。『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』を取材・著述した際に、いろいろ感じていたことを振り返ってみたところ、彼の経営者としての強みは、数えきれないほどあるが、その中でもやはりイノベーションを生み出す力が突出していると再認識した。
新しい技術やサービスは、逆境の時ほど誕生しやすいということも、また事実であり、そんな米国経済の復活も願いつつ、『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』を執筆したとのことである。
 それでは、イノベーションとは何かについて、ここではその本質を述べたい。
「イノベーションとは、組み合わせる力である。」
これがガロ氏の至った結論である。
「連結力」とでもいうか、既にある技術やアイデアを組み合わせて、全く新しい技術や製品・サービスに昇華する力を指すのだと考えている。
イノベーションとは、必ずしも画期的な発明を指すわけではない。既にある技術やアイデアでも、その組み合わせ方次第で、世界を変えるようなイノベーションを起こすことができる。
  「iPhone」「iPad」「iTunes」など、アップルが世に出してきた製品やサービスをイメージすれば、ガロ氏が指摘している「組み合わせ」の意味が分ると思う。これらの製品やサービスは、個々の技術をジョブズ氏やアップルが発明したわけではない。しかし既存の技術を組み合わせ、消費者に響く製品、サービスに仕立てあげたのはアップルであり、ジョブズ氏である。この卓抜した「連結力」こそが、ジョブズ氏のイノベーションの強さである。
発明家になる人材は数が限られるかも知れないが、イノベーターはコツさえつかめれば、誰にでもなれる可能性がある。「連結力」という言葉は、是非とも、みんなにも意識してもらいたい言葉だと思っている。
  ここに書かれているイノベーションは、私が10年前に高知工科大学・水野学長(元松下電器産業副社長)の講演で聞いたことに、よく似た捉え方でまとめてあり、アメリカでも同じ傾向にあったことを再認識した。
水野氏が語った「イノベーション」の本質は、「現在あるものの新しい結合(ニュー・コンビネーション)」+「断固としてやる覚悟(人)」であったが、その中の「現在あるものの新しい結合(ニュー・コンビネーション)」に関して、少し観点を変えて上述されている。また、「断固としてやる覚悟(人)」に通じることが「イノベーターが備えている7つの基本的な要件」の中には幅広い観点から記載されている。
そのようなことで、次回は「イノベーターが備えている7つの基本的な要件」の全体概要を紹介したい。