■ イノベーション考A

  前回に引き続き、イノベーションについて話を続けることとする。
 10年ほど前に、当時の高知工科大学・水野学長(元松下電器産業副社長)の講演を熊本で聞いて、衝撃
 を受けたことを今でもはっきりと覚えている。
 日本では「イノベーション」という言葉を、間違った紹介がされたために、難しいことのように思っている人が
 多く、それが日本のイノベーションを阻害しているような話であった。実は私も間違って理解をしていた一人
 であり、少なからず衝撃を受けると共に、心から納得した次第である。
 この時に私がイメージしていたイノベーションという言葉のイメージが180度切り替わってしまった。それ
 以来、私は話す機会がある時には、多くの方々にパワーポイントで作った資料を使って、「イノベーションの
 真意」を伝えるよう心掛けている。その話の概要は、以下の通りである。
 @ 日本の経済社会において、次の時代が見えない理由は、長年培ってきた「アメリカに
 追いつけ、追い越せ。」という「キャッチアップモデル」思考から未だ脱却できていないこと
 である。今の日本の経済社会は世界の最先端にあり、経済社会のあり方を今までの延長
 ではなく、一昔前は通用した「キャッチアップモデル」から「フロントランナーモデル(自ら
 道を切り拓いていく)」に切替えなければならない。
A 今はまさに情報化社会であり、「世の中の変化のスピード」についていくには、何よりも「情報の収集力と選択力」が大切である。そしてもう一つ「構想力」が欠かせないが、構想力の基本は、「自分で考えること」である。残念ながら日本人は、高度成長期に通用する「キャッチアップモデル」に安住してきたために、「自分で考えること」を疎かにしてきた。
 B 今からは、シュンペーターが提唱している「新しい結合のやり方」即ち「イノベーション」が重要になってき
 ており、考え方を「フロントランナーモデル」に意識変革して、「情報の収集力と選択力」と「構想力」を高める
 ことで、経済活動における多面的な新陳代謝を図り「創造的破壊」を推進していく時代になっている。
 C 「イノベーション」とは「新しい価値の創造」である。
 D 宮崎県・幸島の野生ザル集団は、他の地域のサルと異なり、面白いことをやっている。
 その集団の中の芋子(サルの名)という猿がおり、何かのキッカケで芋を海水で洗って
 食べるようになったが、他の猿も追随するようになり、今では幸島の猿は全員、芋洗い猿
 になっている。イノベーターとは、新しいやり方を始める人のことで、最初に海水で
 「泥付芋」を洗い始めた芋子こそイノベーターである。芋子は、それ以外にも「砂の混じっ
 た穀物の海水分離」も自ら始めている。
 E 「イノベーション」の本質は、「現在あるものの新しい結合(ニュー・コンビネーション)」+
 「断固としてやる覚悟(人)」
である。今日、紹介をした幸島の猿の芋子こそ、イノベーション
 を起したイノベーターであり、「イノベーション」とは、技術革新などと訳すような難しい話で
 はないことを皆さんに伝えておきたい。
F 松下幸之助の二股ソケットに纏わる話であるが、「本当は自分が先に発案した。松下幸之助はそれを真似しただけ。残念だ。残念だ。」と言い続けていた幸之助と同世代の人がおり、悔やみながら生涯を終えたそうである。私は二股ソケットは松下幸之助・独自の発案だと思っているが、万が一、その人の言うことが本当だったとしても、その人と松下幸之助との大きな違いが一つある。それは「断固としてやる覚悟」である。その違いのために、その人は二股ソケットを実現できなかった。当たり前のことであるが、「ニュー・コンビネーション」だけではイノベーションにはならないことも、合わせて理解しておいて欲しい。
というような話であった。
 次回は、『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』の著者カーマイン・ガロ氏の述べていることを
 紹介する。