■
起業家支援で心がけていること 

 起業支援活動で心がけていることとして、いくつかについて「ありたい姿と現実」について述べてみる。

 先ず、事業の結果に責任を持っているのは起業家であり、彼らの「自己選択・自己決断・自己責任の尊重」をすることが大切であると考えている。
 我々が助言を行ったことに対して、それを自分で考えて判断し、あるときは全面採用し、あるときは部分採用し、またあるときは不採用とすることで、実行し結果責任を負うことがもっとも望ましい。
 しかし現実の場面では、うまく言ったときには「じぶんがやったこと」と感謝されることもなく、逆にうまくいかなかったときには「あなたが言ったからやったが、うまくいかなかった」とか言われることになりがちである。そこで私は重要な決断に関することへの助言の際は「自己選択・自己決断・自己責任の尊重」について話した上で、助言を行うようにしている。

 また第3者の視点からみて企業家に厳しい意見を言わねばならないときに、気心が知れない間は、なかなか言いにくいものである。親身になって本人のためと思って直言して結果的に関係が壊れてしまったことも経験している。誰でも厳しいことを指摘されるのは嫌であるが、言ってくれる人が近くにいることも本当は必要ではないかとも思うのだが・・・。率直に述べた助言を起業家が真摯に受け止めて、起業家としての判断に活かしいい結果につながったことで心から感謝されることもよくある。このようなことが我々の「やりがい」につながり、起業支援を続けるエネルギーとなる。
 次に、企業家の思いや個性を知り、事業内容を知り、事業の可能性を知ることも起業支援の第一歩であると思っている。
当たり前のことではあるが、起業家と同じ立場で考えることができ、また第3者として自分の背景を持っても考えることができることが、起業支援では非常に大切である。もし起業家の背景すべてを熟知していることができれば、理屈上では自分の背景に基づく思考・判断とあわせての、最高の支援が可能となるであろう。
 しかし起業家との話の中で、信頼関係がそれなりにできていたとしても、いろんなことに対して詳しく聞かれるのを嫌がられるケースも結構あるのが現実である。出会って間もない間はなおさらである。ある程度の自信を持った起業家の場合は、資金調達と販路開拓の支援をしてさえもらえば、あとは自分でできると考えがちであるが、実際はここに落とし穴があるケースが結構多いものである。だからといって、ただ起業家から支援ニーズを聞くことだけで、支援を行うことを私は好ましいことではないと思っており、このようなやり方を、私は「御用聞き支援」と称している。
しかし我々は「御用聞き支援」でなく、もっと突っ込んでの「企業に役立つ支援」(ソフト支援)をすることが必要であり、そのためには「企業を、より深く知ること」は必要不可欠であると考えている。
 あるときは起業家の立場で、あるときは第3者の立場で思考し、意見交換をすることも大切である。起業家が自分を第3者の目で見ることは大切であるが、これはなかなか難しいことでもある。そこで、信頼おける第3者の存在が大切になるわけである。起業支援のポイントは、「起業家の相談相手」となり、「事業に関する各種アイデアの提供」を行い、「縁づくり(人や助成制度の紹介)」を行うことではないかと思っている。ポイントの中で、「企業家の相談相手」と「事業に関する各種アイデアの提供」についてよりも、「縁づくり(人や助成制度の紹介)」が喜ばれがちであるが、信頼関係が構築できることによって、前者のほうでの活用価値も高いように思うし、そうあって欲しいと思う次第である。
 
 起業家と起業支援家とはいうものの、所詮は人と人とのつながりであり、やはり信頼関係の強さにより、支援の質量も変わってくるものであり、より多くの起業家との関係づくりが望まれるところである。