■起業家に思う

 くまもとテクノ産業財団の仕事をするようになってから5年経つが、いつの間にか多くの企業支援や起業支援に携わってきた。相談に乗った支援企業数は少なくとも300社近くはあると思うが、特に印象深い企業数が63社ほどあり、内訳でいうと創業支援が32社、新分野進出支援が14社、経営革新支援が17社となっている。
この中の数社は残念ながら既に活動しなくなっているが、幸いなことに殆どの企業はまだ健在で前向きに活動をしているところである。いろんな方々が起業を志しているわけだが、今まで接触してきた種々のケースを頭において書いてみたい。

先ず自己資金面でいうと、借金を背負っていながら起業する人、資金を殆ど準備しないで起業する人、数百万円の資金で起業する人、ごく稀ではあるが数千万円〜数億円の資金を持った上で起業する人など本当にいろいろなケースがある。一概に判断することはできないのだが、傾向的にいうと借金を背負っての人や資金ゼロで起業する人は、やはりなかなか軌道に乗せるのが難しい傾向にある。しかし日本ではこのパターンが結構多いようで、安易な起業は問題である。私が相談を受けた中には、借金を抱えながらもいい方向に向かっているケースもあるが、その起業家に対する物的支援者の存在があってのことで稀なケースでもある。
あの起業の盛んなアメリカですら資金ゼロで起業を志す人は皆無で、自己資金だけで起業
する人が8割、残りの起業家は自己資金がなければ親戚や友人に出資支援者を募って、
資金確保をした上で起業するそうである。米国では、起業するにはお金がかかることをちゃんと
理解していること、また直接金融が主流であるからかもしれない。

次に創業理由に関しても、「勤め口がない」「社長になって見たい」「サラリーマンに限界を感じた」「金儲けをしたい」「好きなことをやりたい」「世の中に役立つことをしたい」などと、いろんな発想で起業する人がいる。「勤め口を探したが、どうしても見つからないから自分で起業することにした。
工場を借り、加工機も手配したが、顧客のつても全くないので至急紹介して欲しい。資金の手当てもしていないので融資も繋いで欲しい。」というような、まともな感覚ではない嘘のような話もあった。
傾向的にいうと、志の高い起業家が自ら事業を切り開いていく推進力があるように感じている。また徐々に具体化するうちに起業家としてもどんどん成長していく人も結構いるので、最初から起業家精神豊かな人もいれば、潜在的に起業家精神を持っている人、依存体質の強い起業に向いていない人に分かれるようにも思う。依存体質の強い人の場合は、起業は向かないと考えている。

多くのケースをみていると「商品ブラッシュアップの場を持っている」「ある程度の資金をへそくりも含めて準備している」「最低限の顧客を確保している」が揃っていると立ち上がりも早く、成功確率も高くなるようである。
このような場合に、当初考えていたアイデア特許が技術支援を受けていく中で、技術的にもブラッシュアップされていき、素晴らしい特許取得に繋がるケースも多く、ビジネスプランや事業内容も洗練されていくようである。起業家にとっては未知への挑戦であり、当初考えていたとおりに事業化が進んでいくケースは、非常に稀であるということを実感している。

最後に最も大切なことについて述べておく。
それは、支援者とのコミュニケーションに関することである。
今まで多くの起業支援を行なっていく中で、この人はコミュニケーションがしっかりしていると感じるケースは残念ながらメジャーではない。私が、しっかりしているというのは「ちゃんと約束を守る。守れないときは事前に連絡をする。」「変化があったときは必ず報告をする(そうすると必要な相談に即対応できる)」「適切なタイミングで相談をもちかける」「メール対応をきちんとやる」をできることである。
この当たり前のことがなかなかできない人が多いのには驚いているが、コミュニケーション力は起業家として大成するための必要充分条件ではないかと、常日頃から思っている。熊本人は商売が下手であるといわれるのも、この辺にあるのかもしれない。