■「地元起業家に学ぶ」塾づくりに向けて

 今、情報革命等によるパラダイムシフト(従来の仕組や価値観の劇的変化)が始まっており、世界も日本も、そして熊本も大きな社会変革期を迎えつつある。そのような時代に新たに必要なことは、今迄になかったものを生み出す力であり、そのためには、「自分で考える力」や「人間力」を高めることが求められる。
明治維新に次ぐ日本の大変革点・第2次世界大戦を挟み、何もないところから事業を始め、熊本から世界に発信する企業を築いた起業家で、私が身近に感じている方が2人いる。それは熊本県の経済発展に大きく寄与された平田機工鰍フ故平田耕也氏と、オムロン鰍フ故立石一真氏である。(以後「故」は省略)

 平田耕也氏には、私が平田機工に勤務した13年間、直属の部下としてお世話になり、私自身が結果的に、価値観を含めて大きな影響を受けたと感じている。脱サラ後も、私が創った若手経営者塾「共育塾」にも共感・協力いただいてきたが、残念ながら5期生(2012年度)の時に急逝された。そして亡くなる直前に思考・生成された「5期生の皆さんへ」という若手経営者へのメッセージを、私が預かることとなった。私はこの事実を、平田会長から「熊本の若手経営者に伝えてほしい」と託されたように感じている。 

 しかし文章で書かれたものは、どうしても抽象的な内容となり、一つ一つの言葉の中に込められた「経営の心(起業家精神)」まで伝えることは難しく、「5期生の皆さんへ」も同様である。
私には13年間、平田耕也氏の部下として一緒に仕事をした経験、脱サラ後の共育塾での会食懇談等を通して、平田会長から得て実感したモノ・コトがたくさんある。加えて経営コンサルタントとして多くの経営者とも接し、経営者の生き方(生き様)や、その背景やマインドを客観的に分析・解釈が可能で、それらを融合して次の時代を担う若手経営者に伝えること、意見交換することで、次世代経営者育成にお役立ちできればと考えている。

 加えて立石一真氏についてであるが、オムロンは平田機工とは取引関係という強い縁もある上に、創業者は熊本市新町出身でもある。また創業原点のリレー事業拠点会社オムロンリレーアンドデバイズ鰍ェ熊本県山鹿市にある。
特筆すべきモノとして45年前に創業者が未来学会で発表した「SINIC理論」がある。オムロン創業50周年記念の時にいただいたに創業者メッセージ「未来社会への視点」を読み、「SINIC理論」が的確に過去・現在・未来を捉えていることに驚き、そして感動したことを覚えている。そのようなことでもあり、共育塾生にも「SINIC理論」を紹介し続けてきた。
オムロンでは今でも「経営の羅針盤」と位置付けて、会社の方向付に活用している。上場企業約3400社の中で、2014年度「企業価値向上」大賞(トップ1社)を受賞したことでも、素晴らしい経営方向にあることが分かる。
立石一真氏は知れば知る程凄い人で、熊本の次世代人材には是非とも伝えたいと思っている。

 次の時代を担う若手経営者や経営幹部にとって、この2人から学べるものは多くあり、それを私は「熊本の見えざる地域資源」だと考えている。
全世界に発信する企業にまで育て上げた地元起業家2人の生き方(生き様)や起業家精神を、多くの事例紹介・解釈・意見交換を通して実学として学び、今からの激変する社会変化への対応力を高めて、次世代を担う若手経営者の「企業の変化・成長・発展」に活かして欲しいと考えている。

 最後になるが、次世代を担う若手経営者に、相互研鑽を通して身につけて欲しいことは、下記の3点である。
@ 「発想力」と「デシジョン力」を高める :「各種事例や事業の流れ、生き方」を深耕することで、各自が気付いたことを「自分ナイズ」する
  ⇒各自の起業家マインドの向上(自己取込力
A 「他業種への新たな視点提供力」を高める  :受講生同士の相互研鑽により、視野を広げると同時に、異業種連携の推進力を高める。
  ⇒各自の視野の広がり向上(自己客観視力
B 目に見えない「大切なもの」を体感する :事例を深耕することで「経営の心(起業家精神)」を高める。
  ⇒起業家に必要な資質の再認識(見識・胆識