■イノベーション考@

  東北大震災&原発事故を経験して以来、日本だけでなく世界的に閉塞感が強まっている。
 アメリカは経済停滞・雇用不安が続き、ヨーロッパも財政危機を迎える国が増えており、加え
 てここ数日はアメリカの国債の格付けダウンをキッカケに、世界的な株安・ドル安が始まって
 おり、何ともいえない嫌な局面が続いている。 
 このような先の読めない世界情勢の中で、「イノベーション」という言葉を、最近、いろんなところで聞くようになってきている。「イノベーション」という言葉は、私自身にとって非常に印象深い言葉でもある。
というのは、今から10年ほど前に、当時の高知工科大学・水野学長(元松下電器副社長)が熊本で講演をされ、その中で「イノベーション」に関する話があった。日本では「イノベーション」という言葉が、間違った紹介がされたために、難しいことのように思っている人が多く、それが日本のイノベーションを阻害しているような話である。実は私も間違って理解していた日本人の一人であり、少なからず衝撃を受けると共に、心から納得した次第である。
それ以来、私は話す機会がある時には、多くの方々にパワーポイントで作った資料を使って、「イノベーションの真意」を伝えるよう心がけている。
  アップルの創始者でスティーブ・ジョブズ氏が、近年、アイフォンやアイパッドを世に
 出して大ヒットさせ、非常に注目を浴びているが、彼に纏わる関連書籍がよく売れて
 いるようである。中でも『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』『スティーブ・ジョブズ
 驚異のイノベーション』(カーマイン・ガロ著、日経BP社)が売れており、その著者である
 カーマイン・ガロ氏の記事を読む機会があった。その中ではスティーブ・ジョブズを稀代
 のイノベーターと考えており、彼の言動から「イノベーション」の意味について書いて
 あった。
 そこに述べられていることが、観点を変えた見方ではあるが、前述の水野氏の講演会
 で聞いた話と本質的な共通点を感じたので、それらを合わせて「イノベーション考」
 として取り上げることにした。
   先ず、「イノベーション」についてウィキペディアで調べると、
 物事の「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」を創造する行為のこと。新しい技術の
 発明だけではなく、新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化を
 もたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革である。つまり、それまでのモノ、仕組みなどに対して、
 全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすことを指す。
 と定義されている。
   イノベーションの語源は、英語の innovation である。1911年に、オーストリア出身の
 経済学者シュンペーターによって、著書『経済発展の理論』において初めて上記のように
 定義された。イノベーションはシュンペーターの理論の中心概念であり、この著書の中
 では「新しい結合のやり方」と呼んでおり、以下の5類型を提示した。
 1. 新しい財貨の生産 (例:日清の「カップラーメン」)
 2. 新しい生産方法の導入 (例:トヨタの「JIT生産方式))
 3. 新しい販売先の開拓 (例:三越の「現金掛け値なし」)
 4. 新しい仕入先の獲得 (例:農業者の「産地直販」)
 5. 新しい組織の実現 (例:京セラの「KDDI事業」
 そして、健全な経済活動に必要である新陳代謝を「創造的破壊」という言葉で表わした。



   日本においては、1958年の『経済白書』において、イノベーションが「技術革新」と訳されたことに由来する
 といわれている。シュンペーターが述べている「イノベーション」とは前述の通り「新しい結合のやり方」のこと
 であるが、このような経緯の下に、日本では「技術革新」と訳したことで、非常に難しいものにしてしまった
 経緯があったわけである。

  次回に高知工科大学・水野学長(当時)から聞いた話を紹介する。