■日本人の変あり方に思うB 
   相田みつを氏の著書「にんげんだもの」より


  <負ける練習>

  そのためにはどうしたらいいか。結論から先にいいます。負ける練習、恥をさらす訓練、
 カッコの悪い体験を、できるだけ多く子供にさせておくことです。人間の身体は使ったと
 ころが強くなります。これは至極単純な原理です。その反対、使わぬところはどんどん弱
 くなります。現代っ子にとって一番弱いところはどこか?負けに耐える心、恥に耐える心、
 カッコ悪さに耐える心です。負けるということは自分の思いが通らぬことです。
 自分の思いが通らぬときに、子供は次の二つのうち、どちらか一つの行動をとります、
 1.じっと我慢して自分の欲望にブレーキをかける
 2.駄々をこねて思いを通す



   世の母親は、大体において後者で、大事に大事に駄々をこねさせて、子供の思いを全部通させる。
 年寄りのいる家ではそれに拍車がかかる。いわゆる過保護様々です。つまり、子供が我慢をする体験、
 我慢をする機会を、親自身の手でみんな取り上げてしまうのです。
 そしてわずかなことにも我慢のできない、ブレーキのきかない、わがまま放題な子供を作り上げておいて、
 しかもその子に手を焼いているというのが大方の現状です。
 長い人生には、自分の思いが通らぬ場合がたくさんあります。思うようにならぬのが世の常であり、
 人生です。むしろ、自分の思うようにならぬほうがはるかに多いのが人生です。
 それならば人生の的を思うようにならぬほうに合わせるべきです。
思うようにならぬ ―― それは言葉を変えれば負けることです。かっこよく勝つことで
はありません。自分の思い通りカッコよく勝つことは人生ではごく稀です。だから人生の
的を確率の少ない「勝つこと」に合わせないで、確率の多い「負ける」方に合わせておく
ことです。それが負ける練習です。
  小さいときから負ける練習をさせておけば、成人してから負けに強い人間になれます。
 失敗してもへこたれないたくましい人間になれるはずです。人生におけるどんな波風、どんな
 屈辱にも耐えて、まっすぐに自分の道を歩いてゆけるような、シッカリした「いのちの根」を
 つくっておいてやる、それが本当の愛情だと思います。ラクしてカッコいいこと、つまり勝つこと
 ばかり考えて、過保護に育てられた子供は、その分だけ「いのちの根」が浅く、親亡きあとの
 本人の負担が大きいことを知るべきです。