■ 本田宗一郎
  本田宗一郎「生誕100年」を記念して、「TOP TALKS 語りつがれる原点」がホンダの
 社内書籍として昨年末に発刊された。本田宗一郎はじめ、藤澤武夫、河島喜好、久米是志、
 川本信彦、吉野浩行、福井威夫の歴代トップの講話で構成されたものである。
 長男がホンダマンであり和光研究所でASIMOの開発に携わっており、読む機会を
 持つことができた。
 本田宗一郎は、いつも自分の言葉で自分の哲学を語っているが、今回も感銘を受けながら
 繰り返し読んでみた。ここに印象深い言葉を抽出し、箇条書きで書いておく。

 ・事業経営の根本は、資本力よりも事業経営のアイデアである
 ・人の偉さは、世の中に貢献する度合いで決まる
 ・他社が自社の真似をする頃には、新しいアイデアで次の進歩に移っている
 ・事業の根本は、先ず時代の大衆の要求を知ること
 ・信用は、好かれること、約束を守ること、人に儲けさせてやることに尽きる
 ・見たり聞いたり試したりで、それを綜合してこうあるべきだとやってきた
 ・気付くことが先決条件
 ・行動には常に動機があり、目的がある。動機が正義・目的が善で、行動だけ
  が悪ということはありえない。思想が正しくなくて正しい行動は生まれない。
 ・ホンダは他からの借り物でない、苦労して得た実力が身についてきている
 ・企業は人なり。金や物は大したことじゃない
 ・「観察の目」を開こうとしたら、そのものズバリに苦労することだ。
 ・所詮、人から教わった智恵は、本当に企業を発展させる智恵にはならない
 ・若さとは、困難に立ち向かう意欲、枠に囚われずに新しい価値を生む知恵
 ・「世界的視野」とはヨソの模倣をしないこと、嘘やごまかしのない稀有壮大さ
  バブルがはじけたあと十数年経つが、企業のリストラが大企業に始まり中小企業に至るまで行われ、
 社員一人一人の仕事密度が高まると共に、細かなことまで責任追及も厳しくなっているように感じる。
 このような精神的余裕の失われがちな社会環境の中で、我々は原点に戻って各人が考えることが大切で
 あり、この本もそれを意識して発刊されたのだろう、生を受けたものに対して、「せっかく天から
 与えられた命であり、自分の個性を活かして精一杯生き切る」ことの素晴らしさを伝えたかったのでは
 ないかと思って読んだ次第である。
 
 この本の中で、1965年の社内改善提案受賞者との座談会で本田宗一郎が話したことを、
「失敗の教えるもの」というタイトルで記載されているが、ここに紹介しておきたい。
 
   若いときは二度とないんだから、仕事は思い切ってやってもらいたいなあ。若いうちの
 失敗は会社が危なくなるほどの大きな失敗ではないからな。若い頃、何もせず、引っ込み
 思案のままでいて、年取って責任ある地位についてから失敗すると、今度は会社が危なく
 なっちゃう。
 ウチはそのため、入ってくるとすぐ仕事をさせるんだよ。やはり、実地に「見たり」「聞いたり」
 「試したり」がいちばんいい。試して失敗して、「俺はどうして失敗したんだろう」ということで
 考え、その理由に気付いたときが一番身にしみるんだ。

写真:「本田宗一郎と
井深 大」より
 俺は小さい頃、そうだなあ小学校2、3年の時,石屋の爺さんがお地蔵様を彫っていたんだな。
 俺は、そのお地蔵様の鼻のあそこを直せば俺のイメージにピッタリだと思って、無性に直したくなった。
 そこで爺さんがいないときに、ノミを取って「チンチン」とやったら鼻がポロリと落ちてしまったんだよ。
 こんなことをするのは本田宗一郎だってわけで、指名手配されてしまったけどな。(笑)
 しかし、鼻がポロリと落ちたとき、俺は初めて「悪いことをした。これから二度とこんなことをやってはいけ
 ない」ということを、先生にも爺さんにも教えられないで自分だ悟ったね。
 これは一つの例だけど、みんなも、こんな経験はあると思う。失敗するのが怖いんだったら仕事をしない
 のが一番だ。君たちが定年で会社を辞めるときには、「皆さんのおかげで大過なくすごすことができました」
 というような、バカな挨拶はせんでもらいたいな。昔、殿様に仕えた家老の自己滅却の生き方だよ、
 それは。和気あいあいの中で「お前はいろいろ失敗もしたが、だけどこんな大きな仕事もしたじゃないか」
 と誇れるような生き方、―――これが充実した人生だと思う。失敗はしてもよい。
 だが、二度と同じ原因で失敗しないようにしなければならないね。これが肝心な点だよ。