■ 時代の変化と社会人材教育A

   時代の変化に関して、前回に述べたこと以外に追記しておきたい。
 技術革新で社会に大きく影響を与えているものとして、IT化の進展がある。
 IT技術革新が進み、種々の分野で目覚しい活用がされ成果につながっている。
 パソコンや携帯電話が普及するに従い、メールや 携帯電話を通してのコミュニケー
 ションによる多くのメリットを得ると同時に、多くの弊害も発生している。
 過度なITツール依存は心の交流(人とのふれあい)を阻害しつつあり、画面との対話重視と
 現実のコミュニケーションからの逃避につながり、人間関係がうまくいかないケースが
 いたるところで生じており、教育のあり方にも大きな影響を与えていることになる。


  このような社会環境の中での社会人材教育がいかにあるべきかを考えてみたい。先ず社会人材教育に
 おいて、能力要素と育成法を以下のように整理して書いてある本(「部下育成の7不思議」山際有文著・
 同友館)があったので、説明に使わせてもらうこととする。
      <能力要素>
      *知識(専門、関連、基礎)
      *技能(技術能力)
      *体力
      *精神的習熟能力(企画・管理力
      *取組姿勢(やる気、協調性)
<育成法>
教える       集合教育
実行させる       ↓
実行させる       ↓
考えさせる       ↓
都度、指導する  個別教育
   5つの能力要素である「知識」「技能」「体力」「精神的習熟能力」「取組み姿勢」に対して、それぞれの
 ベターな育成法として「教える」「実行させる」「考えさせる」「都度、指導する」ことがあると書いてあったが、
 非常に説得力のある要素分類であり、育成法であると感じた。戦後の日本人の学校教育は、戦前の
 倫理・道徳教育即ち「心の教育」が否定されて、企業戦士を量産すべく知識教育即ち「ハウツーやスキル
 の教育」偏重で行われ、集合教育主体で行われてきた。このような教育は、高度成長期に必要な人材
 育成にはフィットしており、「現状維持と改善」に対応できる同質人材集団づくりに寄与する反面、異質な
 人材の排除・切り捨て傾向を助長してきた。高度成長の進展により経済的に豊かになり、ハングリー精神も
 なくなっていくに従い、結果として自分で考えることの苦手な依存体質の「指示待ち族」を多く生み出すこと
 となった。


  今まさに「知識・技術偏重教育」から「精神的習熟能力や取組み姿勢を重視した教育」
 への切替えが必要となっている。この観点から考えても、倫理・道徳教育については
 非常に重要であり、江戸後期に来日した外国人が驚いていた「農民を含めた日本人
 全体の豊かな人間性や教育の高さ」をつくってきたともいわれている。倫理・道徳教育の
 軽視が、日本人を悪い方向に変質を促してきたのではないだろうか。
 ある本に、「人とのふれあいが教育の基礎」「思いやりや尊敬の念は、人とのふれあいの
 中で醸成されるもの」と書いてあった。本質的な教育は、「精神的習熟能力や取組み
 姿勢を 重視した教育」であり、いつの時代であっても、この面のシッカリした教育さえ
 なされていれば、「知識・技術」は自主的に勉強できる社会環境(書籍、インターネット、
 セミナー等)になっているように思っている。