■ 都城の紅梅園

  先日、宮崎を訪問したときに、宮崎県産業支援財団の支援企業である(有)紅梅園の徳重文子さんと
 孫の俊一郎氏からの経営相談を受ける機会があった。紅梅園は、完全無農薬の梅栽培を中心とした
 法人農家で、1800本の梅を栽培し、梅干から梅肉エキスまで多くの商品を製造販売している。
 ビジネス・コンセプトは「土は命、食べ物は人の命」とのこと。
                →→→ http://www.koubaien.com/index.htm
  
  代表の徳重文子さんは78歳だそうだが、自家製の完全無農薬栽培の梅干や
 梅肉エキスを常用しているせいか、非常に若く見え、体も柔らかく肌も綺麗で、事業への
 熱い「思い」を持った信念の人であった。
 ご子息は農業を継がなかったようであるが、孫の俊一郎氏が10年ほど前から後継者と
 して仕事に従事しているそうで、それを励みにして、孫の世代に継続できる事業づくりに
 精力的に励んでおられる。


  昔は化学肥料や農薬はなかったわけであり、農薬を使わない自然栽培ができるはずと、
 40年前に土づくりから始めて、段階的に栽培面積も増やし1800本の完全無農薬梅園を
 つくるところまで持ってきた。無農薬では梅栽培はできないというのが農業者の常識の
 ようで、始めて間もない頃には無農薬栽培を行っていることに対して、「嘘つき」呼ばわりを
 されたこともあったようである。化学肥料や農薬に汚染された農園を無農薬農園に持ってい
 くまでには、「土づくりを始めて5年で少しはマシになり、10年で何とか使えるようになり、
 昔に戻すまでには20年かかる」とのこと。
 化学肥料や農薬で土壌が汚染されると、自然循環が可能な土壌菌の世界が壊れてしまい
 害虫が蔓延するようになり悪循環で土も死んでいくことになるが、土づくりを5年もすると、
 ミミズも増殖し土も柔らかくなり、それまで生えていた雑草も種類が変化するとの話で
 あった。
  勿論、農薬や化学肥料を使う場合よりも収量は半減するが、その梅の実に含まれる成分は濃密なものに
 なり、人が食べるものとしての健康・安全・安心に秀でたものとなる。土壌の専門家に評価してもらった
 ところ、「鉄(9.9倍)とリン(1.7倍)の両方が多いことに加え、マグネシウム(1.5倍)も多いことは、
 いかに素晴らしい土壌ができあがっているかの証左である。」との話であった。ここで作られているものは
 全て、「土は命、食べ物は人の命」の「こだわりの商品」である。
  梅干づくりについても、大いにこだわっているようである。
 土については豊かな宮崎の肥沃な土壌を復元して、日本古来の在来品種「鶯宿梅」と「チリメンシソ」を
 自家栽培して使用している。製法についても、こだわりの原料に加え、こだわりの「天日乾燥した塩」だけを
 使い、伝統の製法プロセスの中で数回に及ぶ天日乾燥と、3年かけての熟成をさせることで、自然の恵み
 を全て閉じ込めた美味しさが生まれるそうである。
    梅肉エキスについても同様である。
紅梅園の梅肉エキスの原料は、自家栽培で大切の育てた樹齢40年以上の「鶯宿梅」の
青汁のみを使用している。加工法は、祖先からの伝承を正しく受け継ぎ、特別に作った
土鍋で7〜8日間の時間と手間をかけて、じっくりと梅の青汁を煮詰めていく。そして全体
量の約2%になるまで煮詰めたものであり、全ての成分を無駄なく凝縮させたものである。
当園の梅肉エキスは身体にいいだけではなく、このエキスを300倍に希釈しても
PH(ペーハー)3であり、きわめて強い殺菌力も有しており、希釈液を利用した食品を、
長持ちさせる役割も果たすことができるようである。
  農薬や化学肥料で微生物の世界が壊れてしまい、土壌が死んでいる話を、多くの人から何度も聞いて
 いる。そして昔のように農薬を使わないで農業をやろうとすると、今では天敵のいない害虫に食べられて
 しまい、農産物がまともに生産できない話も聞き、我々が子孫に残す「負の遺産」の大きさに愕然として
 いた。
 昔の土壌を復元することの大切さを常々感じていたものの、土壌復元にどのくらい時間がかかるのか
 今まで想定すらつかなかったのだが、徳重さんから10年〜20年かかるとの話を聞き、大変な事態に
 なっていることも改めて感じている。しかし、その気になれば復元できることも知り、無農薬農業の復活に
 一縷の希望の光も見えた気もしている。
  無農薬農業の全国的な広がりに向けた、都城・紅梅園の今後の活躍にも期待したい。