■Web2.0についてA Webビジネス構造の変化

 ビジネス構造@ :ビジネスモデルの変化
 ビジネスモデルの変化をとらえたキーワードの筆頭はロングテールだろう。ロングテールに着目したビジネスは、これまでのパレートの法則に従えばよかった従来のビジネスの在り方を根本から覆した。ニッチで需要の少ないものまでビジネスターゲットを広げることで、小さな売り上げを積み上げて大きな売り上げにすることに成功した店舗や倉庫の物理的空間の制限を受けないWebの特長を生かし、多様な商品や情報を武器にロングテールに着目したビジネスを展開することが、Webビジネスの定石になりつつある。
 もう1つのビジネスモデルの変化をとらえたキーワードはアプリケーションのパッケージ型からサービス型への変化だ。従来はパッケージソフトウェアとして提供されていた部分をWeb上のサービスとして実現し、情報インフラとしてユーザーに使ってもらう動きである。
例えばGoogleはGmail (Email)、Googleローカル(地図)、Google Reader(RSS/ATOMリーダー)をWebアプリケーションとして提供しているし、ほかにもWritely(ワードプロセッサ)、Num Sum(表計算)などがある。

 ビジネス構造A :情報モデルの変化
 Web2.0でいうマッシュアップとは2つ以上の情報源を混ぜ合わせ、新たに付加価値を提供することである。マッシュアップの手法を使えば他サイトの情報や機能を利用できるため、短時間・低コストでWebサイトを構築することが可能だ。
またマッシュアップされる情報ソースの1つとして欠かせないのが、ユーザーから寄せられる口コミ情報である。多くの口コミ情報を集めるためにはユーザーが自ら参加してくれるような仕組み作りと、集められた口コミ情報(ここではコアデータと呼ぶ)を有効に利用する仕組み作りが重要だ。前者をユーザー参加型、後者を集合知の利用と呼ぶ(図表1-4)。
母数が大きいほど情報の多様性、網羅性が向上すると考えられるため、一般的に参加するユーザーが多ければ多いほどサービスの利用価値が高まる。

図表1-4 口コミ情報の利用
「出所:野村総合研究所

 ビジネス構造B :技術トレンドの変化
 Web2.0で登場する技術は、個別に見てみると特段目新しいものではない。AJAXはその名のとおり
以前から存在していたJavaScriptとXMLの組み合わせであるし、RSS/ATOMの起源は1999年に
Netscape Communications社が開発した仕様だWeb上を流通する情報の主体がテキストや体裁情報が中心のHTMLからメタデータを含んだXMLに移行することやWebAPIが増えることにより、Webの構造化ひいては
セマンティックWebの実現に向けた動きが緩やかに進行中である。
 つまりこれらの技術トレンドの変化は、ユーザーがさまざまな情報源を集約し利用することを容易にする。

 さて、今度は視点を変えて図表1-1の"Webを取り巻く環境の変化"を整理してみたい。Web2.0の成功
事例や先進的事例は、どのような環境変化をビジネスに結び付けたのだろうか? 環境変化の要素を
端的に整理するとWebの世界を行き交うモノ(コンテンツ)・ヒト(企業・消費者)・お金(代金・広告料)の
流れの変化であるが、ここでは2つの象徴的な例として「情報発信者の多様化」と「コンテンツ間・ユーザー間
の相互連携加速」を取り上げる。

図表1-5 情報発信者の多様化とCGMの台頭
「出所:野村総合研究所」
従来のWebでは、情報発信者は大手企業・マスコミ・情報リテラシーの高い先進的ユーザーなどに限られてきた。厳密にいえばユーザーがBBSやEmailで情報発信することは可能であったが、これら情報はさまざまなサーバ上やローカルマシン上に点在し、個々の情報はあまり大きな意味を持たなかった。

Web2.0ではブログ・SNS(Social Networking Site)・Wiki・ユーザーレビューサイトといった情報を発信・集約するツールが誰でも簡単に利用できるようになった。集められた口コミ情報は点在するだけではなく相互に連携し(詳細は次項で説明)、口コミ情報はマス(集団)を形成するようになった。このことはCGM(Consumer Generated Media)と呼ばれ、「ユーザーが情報を発信するメディア」として注目される。
  「ユーザーが情報を発信するメディア」となるのはテキストや写真にとどまらない。ユーザー発のPodcastingによる音声や動画の配信もすでに始まっている。