■「暗黙知教育」の必要性についてA

 ある本に、社会人としての職務遂行能力として、「知識」「技能」「体力」「精神的習熟能力」「取り組み姿勢」
に分類されて書いてあったので、その切り口で教育のあり方を整理してみた。「知識」教育から「取組み姿勢」
教育に向かっての大きな流れとしては、「論理(理屈)重視から情緒重視(倫理・道徳)へ」「集合教育(一方向教育)からワンツーワン教育(双方向教育)へ」「形式知教育から暗黙知教育へ」の傾向が強まることを念頭においていただき、話を進めていきたい。
 
 「知識」には専門知識、関連知識、基礎知識などあるが、一般的に「形式知」化されたもので
あり、知識教育に関しては多人数に対する座学での集合教育(一方向教育)で教えることが
望ましいと考えられる。「知識」教育は、最も効率的な教育形態である集合教育で充分教育効果も望めるわけである。
現在は、「知識」教育に限らず、主催者から考えても効率的な集合教育方式が多用されて
いるが、万能ではないということを理解する必要性も感じている。

 「技能や体力」については、座学での集合教育だけでは不十分であり、それに加えて「実践・実行させる」
ことが必要となってくる。例えば「ヤスリがけ」をどんなに机上で教育をしても、「ヤスリがけ」をできるようにはならないし、「畳の上の水練」では泳げるようにはなれない訳である。このように「技能や体力」については、「知る」と「できる」の違いは非常に大きいものである。「知識を与えるだけでなく、実践してみる」ことで、
初めて身に付き始めるわけである。

 「精神的習熟能力」とは、「理解力、思考力、企画・計画力、判断力、先見力、指導力」などのほか「思いやり力、情緒力」などもある。これらの能力を得ていくためには、頭(論理性:理屈)と心(情緒性:倫理・道徳)の両方を使って、自らが考えることが大切になる。論理性と情緒性のバランスが非常に大切なことであるが、現在行われている教育は、情緒性を軽んじ論理性重視になりすぎているために、精神的習熟がうまく培われていかない傾向にあるのではないかと考えている。

 「取組み姿勢」とは、「やる気、規律性、責任感、協調性、積極性」などである。「取組み姿勢」を育んでいくためには、当事者意識が前提として必要となる。当事者意識は、座学で教えたり、
実践させたりすれば身に付くものではなく、自らの「気付き」によって、初めて得ることができる
ものである。本質的に「やれ」と指示されたことをやるのはあまり好まず、「やりたい、やろう」と自ら思ったことは積極的にやるのが人間である。
「歴史があり企業理念や企業風土を持った会社」においては社員に浸透している「取組み姿勢」を新入社員も常に接しながら身に付けることができるので、取り組み易いが、企業理念や企業風土が根ざしていない地域中小企業においては、なかなか取り組みにくいのではないか。というのは「取組み姿勢」に関する教育は、「形式知」教育ではなく、「暗黙知」教育にならざるを得ないからである。

 暗黙知教育の最も現実的な方法は、「同行体験」を積むことである。昔の世界でいうと「親方と弟子」の関係がそうであるが、マンツーマン教育を長期間行うことで、親方のノウハウを弟子に伝授するわけである。
しかし同行体験を長期間行うことは、それぞれが忙しく働いている中では、なかなか容易にできること
ではない。そこで「一緒にいる時間を少なくして、且つあたかも一緒にいる時間を多くする方法はないか」と
考えてみた結果、ノウハウ伝授の方法として@少数での異質人材の集団化、Aメーリング・リストの活用、
B外部からの不定期の刺激、を組み合わせることで、仮想同行体験に近いようなことができるのではないかと考えた次第である。
 
 
 このような必要性を感じる中で地域診断士研究会を立上げ、何とか軌道に乗ってきていることもあり、さらに少数精鋭・後継者共育塾も立ち上げるようにチャレンジを始めているところである。最も大切なことは、各人の「気付き」によるセルフ・モチベーションを各人が自ら創ることであり、私はあくまでも「お互いに教え、学ぶ場」を提供したいと思っている。