■日本と中国のコミュニケーション・ギャップ
文春オンラインに、『「これが貴国の礼儀ですか」中国“戦狼外交官”との舌戦を元大使が明かした!《最も恐れられる日本人》』の記事があり強く興味を覚えました。
《最も恐れられる日本人》とは
2020年から3年にわたって駐中国大使を務めた垂秀夫氏が、中国外交部と繰り広げた熱戦の日々を明かした。恫喝的な態度を取る中国サイドと臆さずに対峙してきた垂氏は「中国が最も恐れる男」と呼ばれるほどの人物。昨年12月に外務省を退官。
<記事の内容>
初対面でしたが、私が席に着くなり、「厳正に申し入れを行いたい」と、長文の抗議文を読み始めた。私は30分ほど黙って耳を傾けていましたが、彼女が読み終えると、こう切り出しました。「華春瑩さん、初めてお目にかかります。まずは最近、部長助理に昇進されたことを、お祝い申し上げたい」
抗議をする場合でも、挨拶や雑談から始めるのが、外交上の礼儀です。彼女は途端に「マズい」という表情をしました。一転して、「このような場でありますが(お祝いしていただき)、ありがとうございます」と居住まいを正した。これで力関係が決まったのです。私はこう続けました。「私が面会を申し込んだときは逃げるだけ逃げて、自分が会いたい時は『すぐに来い』と呼び出す。これが貴国の礼儀のあり方ですか」
日本国内には「台湾有事は日本有事」といった考えがある現実を理解すべきであること、そして一方的な主張は到底受け入れられない旨を述べました。すると、横に座る華氏の部下が一生懸命、ペーパーを入れてくる。華氏はそれを受けて、「台湾統治時代、日本軍国主義が多くの台湾民衆を殺害した」などと言ってきたので、こう反論しました。
「日本政府で私ほど台湾問題に詳しい者はいないので、いい加減なことは言わないでほしい。当時の台湾統治と軍国主義は関係ない。日清戦争後の下関条約の結果として、清国からの割譲という正式な手続きにのっとって台湾を統治したのである」と。
大使在任中は、いわば敵陣にいるわけですから、理不尽な目に遭うことが多々ありました。それでも、国益に基づいて、中国に対して言うべきことはハッキリと言う。それだけは常に心掛けてきました。
中国の門戸開放した鄧小平時代から胡錦濤時代を経て習近平体制に変わりました。
胡錦濤体制の後半には経済成長が低減し始めた上、腐敗汚職や環境破壊、経済格差という問題が深刻になったことで危機感を持ち、習近平がとったのは強い中国をつくるというアプローチです。一番重要なのは経済建設ではなく、国家と党、体制の安全にシフト。科学技術の発展が全体主義国家にとって親和的に働いています。ネットでの管理、監視カメラとかに加えて、公安や情報機関の力が強化され、一党支配から一人支配体制に変わってしまいました。
日中関係は今、余裕がない。双方とも、自分が一歩下がれば相手が一歩前に出てくると思っている。不信感があるから下がれない。周恩来元首相が言ったように、相手のことも考えないと交渉なんて成り立たない。日本人と中国人の思考の違いが相互理解を阻んでいます。
中国は「マクロ的なフレームワーク重視」で、国家の位置づけをセットしたうえで個別問題への対応を考える。一方で日本は「ミクロ的なフレームワーク重視」で、具体的問題(例えば処理水問題など)から入り、その積み重ねによる相互信頼関係をつくるやり方である。
そこで安倍政権の時に「戦略的互恵関係」を打ち出して、対話の糸口をつくることができました。
彼の記事をいくつか読んでみて、こんな日本人外交官がいることに、日本もまだ捨てたものではないと思いました。