多様な他の分野においても、矛盾の解決策「ヘーゲルの弁証法」が見直されるタイミングにあるのかもしれない。
繰り返し聞くことができたことで、野中郁次郎氏の「今の日本式経営への危機感」が、より深く理解できた。
実践知のリーダーシップとは、善い目的を追求し、現実を直観し、場をつくり、直観の本質を語り、その物語を実現して実践知を自律分散系へとつくり上げていくことである。
がんばれニッポン!

実践知リーダーシップの本質は、「ヒューマナイジング・ストラテジー(人間くさい戦略)」にあり、それは分析ありきで得られるものではなく、まずは直接経験ありきである。初めに思い(共感)があり、それを戦略として展開していくと「人間の生き方」の物語となる。
ヒューマナイジング・ストラテジーを創造し、普遍化するために3つのポイントがある。
共通善のパーパス :イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく
相互主観性による共感 :個人の主観(1人称)を組織として共有し、対面で共創する相互主観(2人称)がつくられ、客観(3人称)へと昇華
組織の自律分散性 :アジャイル・スクラムによるミドル・アップ・ダウン経営

SECIモデル共感から始まり、対話や共体験を通じて本質を突き詰めるやり方である。個人が持つ知識や経験(暗黙知)を組織全体で共有(形式知化)し、ユニークな集合知を創造し、またその組織知の実践を通じて個人の暗黙知を豊かにしていく循環型のフレームワークである。
繰り返しになる面もあるが、「ヒューマナイジング・ストラテジー(人間くさい戦略)」の全体像を要約してみる。
人間本来の野性味や創造性の欠如が、日本のイノベーション力を劣化させた。
バブル崩壊を機に、日本企業はアングロサクソン型の経営に範を求めたことで、①オーバーアナリシス(過剰分析)、②オーバープランニング(過剰計画)、③オーバーコンプライアンス(過剰規則)」に陥ってしまい、人間が本来持っている野性味や創造性を弱体化させてしまった。
知れば知るほど、稲盛和夫氏の「フィロソフィー」やP.F.ドラッカー氏の「マネジメント」との共通性を強く感じている。また、日経ビジネスに11回連載された人間的経営論(2022.13)を見ると、東洋哲学を基盤においた知識経営理論(SECIモデル:世界の異端論)に西洋哲学に基づく近代経営学(世界のメジャー思想)の限界が見えてきて、新たに「西洋哲学と東洋哲学の融合」が双方から始まっていることも感じている。
米国発の「過剰分析、過剰計画、過剰規則」(形式知)を取り入れすぎたために、いちばん大切な「思い」(暗黙知)を軽視し、「指示待ち、手続き・手順優先、思考停止」の悪循環に陥り、創造性が劣化している現状への警鐘を発している。いくつもの具体事例を上げて、ヒューマナイジング・ストラテジー3基盤である「世のため、人のため(利他の心)」「無意識(暗黙知)と意識(形式知)の融合」「ダイナミック・ストラテジー化」を活かして、「物語化:ナラティブ・アプローチ(はじめに思いありき)」を活用すること。そして今からは「実践知リーダーシップ」が大切になる。

今年5月に『TECH+ Business Conference 2023 ミライへ紡ぐ変革』があり、基調講演を一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が行った。(野中氏はナレッジマネジメント:SECIモデルで世界的に有名な経営学者)テーマは『「ヒューマナイジング・ストラテジー」日本企業の底力を引き出す』、そして6月に『持続的価値創造を実現する企業変革「次の一手」』の基調講演でヒューマナイジング・ストラテジー  経営に「野性」を取り戻せ』と続けて話をされた。
ヒューマナイジング・ストラテジー2019年に「共感経営」のニューモデルとして発表して以来、野中先生が一貫して使っている言葉である。
私が野中先生のヒューマナイジング・ストラテジーの講演を聴くのは、合計4回目(2021,2022,2023×2)になるが、今回の話を聞いた後で整理して改めて思ったのが、日本的経営の劣化に対する危機感の強さである。

野中郁次郎のヒューマナイジング・ストラテジー