■ターニングポイント その3
 −企業支援の基本スタンスの見直し−

  企業支援に際しては「支援企業のいろんな相談に乗る」ことや、「財務諸表を分析したり
 現場を確認したり、経営者や従業員と話をしたりすること」から、「企業の実態(SWOT:強
 み・弱み・機会・脅威)を把握し、課題点を明確にし、対応策を提言する」ことが大切なことだ
 と思っている。そして経営者自らが企業支援者(第3者)からの率直な意見や助言に耳を
 傾け、疑問点を確認した上で、経営者の意思で再整理を行ってみる。そして経営者が自ら
 洗い出した課題を、重要度・緊急度の判断に基づき、実施の優先度を決めて取り組むことが
 重要である。経営者が第3者の意見を傾聴した上で、自らの判断で課題克服に真正面から
 取り組み、施策実践をしていくことで、はじめて企業力が高まると、私は考えている。
 
  しかし、経営者にとって第3者の意見を傾聴し課題を掘り起こすことは、自分の今までの経営のやり方の
 問題点を洗い出すことでもある。言葉を変えると、経営のやり方の弱みを目の前に突きつけられるような
 もので、経営者にとっては、あまり気持ちのいいことではない面もあるわけである。それに加えて、当事者と
 しては、時間のかかることは後回しにして「短期間で解決したい、楽をして解決したい」気持ちが湧くのも
 当たり前のことであり、「いやな話は避けたい、アイデンティティーを犯されたくない」のもやむを得ないこと
 かもしれない。
 
  経営者が経営に強く危機感を持っている場合は、面子や些事なことなどよりも大切な
 ことがあることを認識しているので、経営者と企業支援者の双方が「何よりも課題解決を
 やり抜く!」という共通目的を持った上での率直な意見交換が可能となり、強い信頼
 関係をベースにして、抜本的な施策実践が確実に行われやすくなる。
 しかし経営者が本心から危機感を持っていない場合に、企業支援者が上述のケースと
 同じような言動を行ったりすると、それまで信頼関係があったとしても、両者間の意識の
 ミスマッチが起こりやすくなる。特に企業支援者が、その経営者の課題を解決してやり
 たいと強く思えば思うほど、経営者の耳に痛い話をすることになるので、両者の距離は
 ますます広がる。よかれと思っての提言が、相互の信頼関係を破壊するという悲劇を
 引き起こすわけである。
  
  私自身この10年間の企業支援を通して、いろんなケースを多く経験してきているが、支援に力が入る
 ほど経営者とのミスマッチが発生しがちとなり、思い入れを持った企業支援の難しさを常に感じてきた。
 もちろん、あとになって非常に感謝されることもあるので、なおさらである。
 今までの経験でいうと、あまりおせっかいにならずに、企業が必要とするときに助言するくらいのほうが、
 企業からは喜んでもらえるケースが結構多いと感じている。従って、企業支援においても情と理の世界の
 バランス感覚を意識し、相手の反応を見極めながら、支援を行っていくことの大切さも感じている。
  
  今回、新連携にタッチするようになり、統括プロジェクトマネージャーの星崎氏から
 「ポジティブ・サポート」「ポジティブ・レセプション」という言葉を初めて聞き、非常に新鮮
 に感じている。そして星崎氏の企業対応のやり方を見ているうちに、「ポジティブ・サポート」
 という言葉の具体的な実践法がはっきりと見えはじめつつある。
 経営者の言うことを認めることからスタートすることで、経営者も聞く耳を持ち、心を開くこと
 につながり、問題の共有化ができる素地が整う、即ち、真の支援のスタートが切れることが
 よく分かってきた。
 「先ずは信頼関係の構築から」ということを、頭で(理屈で)分かったつもりでいて、身体で
 (心から)分かっていなかったことに改めて気づかされたことになる。そして「誠意を持って
 率直な対応をしていれば、相手との信頼関係は成立する」との思い込みがあったことにも気
 づかされた。
 「ネガティブチェックからポジティブサポートへ」という言葉を常に頭の中に置いて、新たな
 活動の基本姿勢にしていきたいと思った次第である。