■桜町地下にある泉観音像



昨年オープンした桜町地下街にある「観音の泉」の観音菩薩像に関する誕生秘話を紹介したい。

私はおよそ2年前から、近所にある浄国寺の座禅会に参禅している。中山住職の座禅後講話で何回か聞いたことがあるのが、「泉観音」にまつわる話である。  浄国寺には、稀代の活人形師・松本喜三郎(熊本出身)が製作した最高傑作である「谷汲寺観音像」(県重要文化財)が置いてある。
松本喜三郎は文政八年(1825)2月、熊本の井手ノ口町(現熊本市迎町)に生まれた。幼い頃から手先が器用で、若くして地蔵祭りの造り物等を手懸けていた。その後、大阪、東京などで「活人形元祖肥後熊本産松本喜三郎一座」の大看板を掲げて興行し、看板に偽らぬ、生きているような人形の素晴らしさで大当りをとったようである。現存する遺作品は「谷汲寺観音像」など10数点あるが、自分で最高傑作だと思っていた「谷汲寺観音像」は熊本に持ち帰ったそうである。

みのもんたのケンミンショー」で紹介されたように、熊本県民なら誰でも知っている、もしくは聴いたことがある「センタープラザの歌」がある。
      泉の広場で会いましょうと♪
      あなたの言葉を思い出す♪
      最後のバスはもうすぐ出るのに♪
      いつまでも   いつまでも♪
      センタープラザ♪

「センタープラザ」とは、熊本交通センタービル内にあった地下街(最盛期は82店舗)のことで、その中心にある「泉の広場」は、老若男女の待合せ場所であった。
熊本交通センター(1969~2015年)の開設者である故・岡力男元社長が熱列な観音信仰者であり「谷汲寺観音像」のある浄国寺にもよく参拝に来ておられ、先代住職とも懇意だったそうである。
交通センターをつくる時に、地下街の中心に「泉の広場」を設けて泉観音像を設置したいという「強い思い」があった。そこで有名彫刻家に大理石で観音像を作ってもらい、先代の中山住職にお願いし「谷汲寺観音像」の分身として、浄国寺で魂入れをしてもらったとのこと。
交通センターを解体する時に、その泉観音を一時的に浄国寺に遷座することになり、交通センター跡地に桜町ビルが完成するまでの約6年間、浄国寺に預けてあった。
私が浄国寺に参禅を始めた頃は、本堂に設置されており写真撮影もできた。
4年前に熊本大地震が発生し、寺の中は多くのものが壊れたが、「中央の仏像」「谷汲寺観音像」「泉観音像」の3体だけは、長年の参拝者の思いにも助けられて無傷だったとのこと。特に「泉観音像」は、大理石で重さが1トンもあり、倒れたら壊れるのが普通なのだが、奇跡的に畳の方向に背中から倒れたようで、全くの無傷だったそうである。

「谷汲寺観音像」が「泉観音像」の分身だと知ることができた。