■イノベーション
 
  
先日、熊本県のインキュベーション施設である夢挑戦プラザ21にて
 元・松下電器産業副社長で、現在は高知工科大学総合研究所所長である
 水野博之氏の講演会があった。題名は「今求められる経営者の構想力」と
 いうものであったが、プレゼン資料なしでのアドリブ付の講演であり、興味を
 そそる内容であった。水野氏とは昨年のJANBOアワードの審査委員会で
 ご一緒したことはあるが、今回の話を聞いて、すごい人であることを改めて
 認識した次第である。
 
  話の内容は、戦後間もない昭和27年に松下電器産業に就職し、「欧米に
 追いつけ、追い越せ」の目標に向かって、時代の変化を実感しながらの仕事
 人生を歩んできた話から始まる。ところが、ある段階から「先が見えない時代」
 になり、現在もその状況で推移しており、世の中に閉塞感が蔓延している。
 戦後一貫して追究してきた「従来のキャッチアップ・モデルから抜け出せない
 でいること」が最大の問題であると論じる。
  
  今必要なのは「キャッチアップ・モデルからの脱却」であり、創造的破壊即ちイノベーションが
 キーワードであると考えている。
  
  ケインズとともに20世紀を代表する経済学者であるシュンペーターが、「社会の変革は何によって
 もたらされるか」というテーマを追求する中で、「イノベーション」という概念を思い至ったそうである。
 シュンペーターの言っている「イノベーション」は「新しいやり方」のことである。日本では「技術革新」と
 訳されたために、難しいものとのイメージができあがってしまったが、本当は簡単なものから難しいものも
 含めた概念である。


  「イノベーション」は「新しいやり方」のことであり、新しいやり方を始める人
 を「イノベーター」という。
  宮崎の幸島の猿の芋子(名前?)が海水で芋を洗い始めて、今では島の
 猿全部が海水で芋を洗うようになったそうだが、芋子は「イノベーター」で
 ある。芋子は、それ以外にもイノベーションを行っている。
 浜辺の粟などの穀類を、そのまま拾って食べていたのを、砂と一緒に
 海水に投げ込み、比重が軽いために浮いた粟を食べるようにしたそうで、
 他の猿も今はそのようにしているそうである。新しいやり方で、効率的な
 給餌方法を見出したわけである。
  
  「イノベーション」の本質は、「現在あるものの新しい結合(ニュー・コンビネーション)」ではあるが、それ
 だけではイノベーションは発生しない。必要充分条件として「断固としてやる覚悟」がある。従ってニュー・
 コンビネーションだけではイノベーションは発生しない。日本の3大発明として「二股ソケット(松下)」
 「地下足袋(ブリジストン)」「亀の子タワシ(大堀さん)」がある。松下幸之助が二股ソケットの発明者で
 あるが、その前に自分が発明したという人が昔いたそうである。しかし「断固としてやる覚悟」があったのは
 松下幸之助であり、実用化したのも松下幸之助であったことは間違いない事実である。

  今まさに情報化社会であり、世の中の変化のスピードは昔では考えられないほど早くなっている。
 このような時代に対応していくには、情報の収集力と選択力が大切であり、それに加えて構想力が欠か
 せない。構想力とは、「常識にとらわれない、既存の組み合わせから、新しい何かを導き出す力」であり、
 それを身に付けるための必要条件は「自分で考える力」を深めることである。

  以上の話しを聞いて「イノベーション」という言葉を改めてかみしめている。