■バーチャル美空ひばり新曲発表に思う②
語りについてレコードには「悲しい酒」のみで語りが入っており、これをベースに作ったものは「励ましの歌」には使えない「悲しい語り」になってしまい行き詰った。息子の加藤哲也に相談すると、ひばりが公演で留守する時に息子が寂しがらないように録音した「励ましの声」が残されており、その音源を活用することで、この悩ましい課題も解決できた。
4K・3Dの等身大のホログラム映像上では天童よしみが振り付け、衣装は後に晩年の美空ひばりのトレードマークともなった「不死鳥」コスチュームを手掛けた森英恵が担当している。
天童よしみはプロになる前に、最も尊敬する歌手・美空ひばりの全てを真似して練習したことでプロの歌手になれた。今回はその「思い」を胸に、心身ともに美空ひばりになり切り、何回も「あれから」を振り付け歌唱していた。その際、全身に反射マーカーを付けて振り付けも記録された。ほかに残された映像から、AIを活用して顔の表情もつくり上げていたが、現状ではまだまだ改善の余地があるように感じた。
コスチュームについては、美空ひばりの多くの衣装デザインを手掛けた森英恵が、「あれから」の歌を聞いて美空ひばりをイメージしてデザインをした。等身大の体系が似たモデルに着せて、髪型についても、美空ひばりのヘアメイク美容師だった人が髪を結い披露している場面があった。そのモデルの姿を見て森英恵が涙ぐんでいたのも印象的だった。
 

「AIは強力な技術であり、使い方によっては善にも悪にもなる。」
テクノロジーを使って、故人である音楽家のイメージや演奏表現を再現することにも、賛否両論がある。また同じ技術を活用することで、トランプ大統領がオバマ前大統領の発言をする動画もできるようになっており、有名人や選挙対立候補を貶めることも簡単にできる時代になっている。現実に、そのような動画も作られている。
昔は高度なテクノロジーは高価格で、一部の技術者しか取り扱えなかったが、近い将来、安価で誰でもが扱えるものになっていくことが想像できる。
そうなると今まで以上に、人類全体の倫理観を高めることが求められるが、残念ながら変質資本主義の時代、倫理観が軽視される方向に向かっているように感じる。
バーチャル美空ひばりについても、本人の意向、ファンの意向、利権の問題など、いろいろ考えられるが、既にバーチャル美空ひばりのDVDが発売されたようである。
最後に、資本主義の創始者・アダムスミスが言っている言葉を紹介しておく。
「人間とは元来、怠惰で無精で軽率、浪費家である。 時には善人にもなれば、悪人にもなる。 時には聡明だが、それ以上に愚かな存在なのだ。」