■稀勢の里に感動

大相撲春場所が終わったばかりであるが、稀勢の里が優勝するという誰もが予想だにしない展開に、日本中が驚愕と感動に満たされた千秋楽となった。
13日目まで全勝の横綱・稀勢の里と横綱・日馬富士の対戦で、日馬富士の圧倒的な集中力に屈しただけでなく、土俵から落ちるときに左肩を強打して、激痛で顔をしかめ動けなくなってしまった。
怪我の状況は伏せられ、怪我の悪化を危惧して周りの関係者は休場を進めたが、翌朝に稀勢の里の強い意志で、残り2日間も出場することになった。しかし翌14日目の横綱・鶴竜との対戦では全く相撲にもならない状況で2敗目を喫し、一方で1敗の大関・照ノ富士が、大関復帰のかかった琴奨菊に、変化で勝って1敗を守り勝ち星でトップに立った。

千秋楽は稀勢の里と照ノ富士の直接対決だったため、この時点で誰もが照ノ富士が優勝すると思っていた。何故ならば、手負いの稀勢の里が優勝するためには、本割で照ノ富士を破り、更に決定戦で勝つという誰が見ても不可能な挑戦であったからである。従って相撲関係者だけでなく、我々普通の大相撲ファンであっても、あり得ない話だと思っていた。
稀勢の里が力士寿命のリスクを考えることよりも、相撲ファンの期待に応えたいということを優先して出場を決めたのであれば、勝敗よりも怪我の悪化だけはさせないで欲しいと切に願った次第である。

いよいよ千秋楽の稀勢の里と照ノ富士の取組が始まり、怪我を悪化させないで終えてほしいと思いながら、本割も時間一杯となり、1回目は怪我をかばうために右に変わったが、行司から「待った」の声がかかり、2回目には左に変わったものの簡単につかまってしまったが、怪我をしている左手も使いながら動き回り、押し切られそうになったところで右に回り込み、突き落としで照ノ富士が土俵に落ちた。奇跡的に稀勢の里が勝ったことに、ただただ驚くばかりだった。
13勝2敗で並んで、優勝決定戦を行うことになったが、「これで横綱としての立派な成績も残したので、決定戦では怪我を悪化させないでほしい。」「この体で2番続けて勝つことなどあり得ない」と思いながら、「負けても十二分の活躍をしたよ。」と思っていた。


ところが優勝決定戦でも、簡単に差されて土俵際に押し込まれ、「ここまで」と思った瞬間に右からの小手投げを打ち、照ノ富士を土俵に這わせて勝ってしまい、「こんなことはあり得ない!」「どうして?」と驚くと同時に、何とも言えないこの上ない感動を覚え、思わず拍手した。
一方では、照ノ富士も13日目の鶴竜戦で左膝の古傷が悪化したようで、14日目の琴奨菊戦に変化せざるを得なかったとの報道もある。「目に見えるつらさと、目に見えないつらさがあり、なかなか難しい」と表現している。照ノ富士にとっても、いろいろ想定外だったこともあるのではないかと思っている。

表彰式のはじめに君が代斉唱があったが、その時に稀勢の里はこらえきれずに男泣きをしていたことも印象深いシーンであった。その後のインタビューなどでも、「これぞ日本精神を表す言葉」をいろいろ使っていたので、その言葉も紹介しておきたい。
*苦しかった分、うれしい
*最後は自分の力以上のものが後押ししてくれたと思う
*けがをしたのは自分が悪いので、けがをしない体を作ることだと思う
*なるべくなら巡業に出るのも使命だと思っている。行けるのであれば行くし、だめならしっかり休むという選択もあると思う

*これからまた、これ以上のことを自分に求めていきたい。これで終わりじゃない。もっともっと上を目指す気持ちでやっていく

 
*もともとであれば、15日間万全の状態で務め上げるというのが使命。見苦しいテーピングをしなくてはいけないような状況になってしまった自分が一番悪い。今後はけがをしない体づくり、相撲が大事になってくる

稀勢の里関、この上ない感動をありがとう!