■未来社会への視点/オムロン創業者・立石一真氏から学ぶB

  オートメ化創業30年記念の時に立石一真氏が執筆した「未来社会への視点」の全文を4回に分けて紹介していく。今回はその第2回である。

情報化社会から最適化社会へ
人間の原始時代からのいろいろな出来事のうち、ことに科学、技術発明に関する出来事をずっと綴り合せてみると、成長曲線になる。この成長曲線とは、新しい商品を開発して、それがいつ頃、全盛時代ないし競争時代に入って、いつ頃、ライフ・サイクルが下降し始めるかを示すものである。この曲線に過去の歴史的な出来事をてらし合わせてみると、だいたいこれに乗っかってくる。
このシニック理論によって原始社会から未来社会までを予測すると、次のようになる。まず原始社会、次が集団社会、さらに農業社会、手工業社会、工業化社会、機械化社会、自動化社会、そして現代は情報化社会、さらに最適化社会、自律社会、自然社会へと、社会段階が順次変革、発展するであろうと推測できるわけである。

  現在のわれわれは、1974年から2005年まで続く情報化社会の真っただ中にいることになる。そして、この30年間の情報化社会の最盛期が、1990年から1995年ぐらいではないかと予測される。
ネイスピッツは、その著書「メガトレンド」において、現在の最大のメガトレンドとして、工業化社会から情報化社会への大きな潮流を指摘しており、次なる情報化社会の最盛期は1990年代だとしている。われわれのシニック理論とまったく一致している点がおもしろい。
そこでここではこういう仮説が成り立つのではないだろうか。
それは、わがシニック理論を発表したのが昭和45年。そのころ立石電機の経営、というよりも少し遡って昭和30年、日本に初めてオートメーション・マーケットの開発を始めてから、シニック理論に則る科学、技術、社会の円環論的な展開により、自ら情報化システムを開発して、一応、最大のメガトレンドに乗り、企業としての成長をもたらしたのであるから、今後も未来予測の糧になるであろう。

 シニック理論ではこの情報化社会は21世紀の5年間まで続く。その後、2006年に最適化社会に入る。最適化社会とは、最適情報が非常に速く、また安く手に入るような一つの社会的なシステムができあがる社会である。つまり、この時代には人類のすべてが、自分に最もふさわしい最適な仕事を安定して得られる時代・社会になるであろうということである。もちろん、情報化という仕事はずっと続くわけであるから、最適化社会の産業は、現代から引き続いて情報化産業であろう。この最適化社会へ向かうであろうという考え方の基本的前提をなしているのは、人間は本来“種の保存”が本能的なものなのだから、本能的に生命の危険を避ける方向に行動し、さらに自分の将来の幸福をもたらすであろう方向に行動する、という考え方である。
 
  したがって、人類は自らの存続のために、社会的なシステム全体の最適化技術の発達を促す。それによって、社会全体の方向をより規範化し、科学、技術のさらに高度な発達とともに、自然的、人工的環境のコントロールをも可能にするだろう。
それに伴って、人類は物質文明の弊害から脱して、物質の世界から心の世界へと移行していく。つまり、生きる歓びの探求をその目的として、人間の英知と善意による平和と生命の尊厳の新世紀へ、と大きく変容していくであろう。
まさに“論語”でいう「衣食足りて礼節を知る」の社会が最適化社会である。そしてさらに、「その欲するところに従って矩(のり)を超えず」の世界が2025年からの自律社会である。
この自律社会の実現は、人類が物質文明の壁にぶつかって、精神文明の方向にハンドルを切り替えることを意味している。つまり、物の世界から心の世界が重視される社会になるというわけである。