■未来社会への視点/オムロン創業者・立石一真氏から学ぶ

 オムロン創業者の立石一真氏の業績を、それなりに理解している人は、意外と少ないのではないかと思う。またオムロン株式会社についても、「体温計や血圧計を作っている会社」と思っている人が多いのではないか。しかし体温計など健康医療機器は売上の11%を占めるにすぎず、売上の過半数を占めているのは、一般消費者とは関係の薄い生産設備等に使う電子部品や制御機器を製造販売している企業である。
私がオムロンを知ったのは、今から30年前にユーターンし生産設備製造会社である平田機工に入社した時からである。生産設備に使う電子部品や制御機器の大口取引先だったこともあり、多くの営業や技術の方々と親しくしていた。今でも交流を続けている方も数名いる。

オムロン創業者
立石一真 氏

オムロンが1985年に、オートメ化創業30年(創業52年目)に記念イベントを行ったが、その時の記念品の一つとして、「未来社会への視点」というA3版の二つ折りの資料もいただいた。
この資料の中で、初めて立石一真氏が未来学会で発表したSINIC理論(1970年発表)を知ったのだが、まだパソコンが市場にない時代に、このようなことを考える経営者がいたことに驚かされたことを記憶している。他にも、いろいろいただいた記憶はあるが、何故かこの資料だけは大切に保管してきた。
それを30年後の今、このような形で紹介することにしたのも、何かの不思議な縁であろうと感じている。
私の方では、8年前に始めた若手経営者塾・共育塾において、毎年、この資料とSINIC理論の図をコピーして渡し説明をしているが、発表して30年後の今でも、新鮮な驚きを感じさせる資料である。

 オムロンでは、SINIC理論を「経営の羅針盤」として今でも利用しており、比較的新しい事業である社会システムや健康医療機器への進出も、これに沿って事業化されている。今からも、時間軸のズレは修正されても、「経営の羅針盤」として、活用されていくことが納得できる内容である。
SINIC理論とは「イノベーションの円循環論的展開(Seed-Innovation to Need-Impetus Cyclic Evolution)」のことであり、添付図を見ながら、以下の説明内容とすり合わせると、分かりやすいのではないかと思っている。

@科学/技術/社会の間には、ツーウェイの相互関係がある
A新しい科学が生まれると、その科学からシーズ(種)をもらって、新しい技術が開発される。その新しい技術によって、社会をイノベートしていく。
B逆に社会から出されるニーズ(要望)を捉えて、これを満足する新しい技術を開発する。新しい技術によって、新しい商品が生まれるという関係もある。また必要があったら、この技術が科学にインピタス(刺激)を与え、必要な科学をつくり上げることもある。
CSINIC理論とは、このシーズとイノベーション、ニーズとインピタンスの間に、サイクリック・イノベーション(円環論的関係)という関連があることから名づけた。技術を媒介として科学と社会が円環し合っている。
Dこの3つが円環論的な関係で、お互いにだんだん進歩していく元は「人間の進歩志向的な意欲」である。


次回から、オートメ化創業30年の時に立石一真氏が執筆した「未来社会への視点」の全文を、数回に分けて紹介していきたい。